電話リレーサービスを知っていますか?〜聴覚障害者の電話利用を支える制度とは

電話リレーサービスを知っていますか?〜聴覚障害者の電話利用を支える制度とは

電話リレーサービスを知っていますか

就職の面接案内、病院の予約、役所への問い合わせ――私たちの暮らしの中で「電話」が求められる場面は、思いのほかたくさんあります。では、聞こえない人・聞こえにくい人は、どうしているのでしょうか。

「電話リレーサービス」は、聴覚や発話に障害のある人が、通訳オペレーターを介して電話をかけられる公共インフラです。

利用者が手話や文字チャットでオペレーターに伝えたい内容を伝え、オペレーターがそれを音声で相手方に伝える。相手方の音声は、オペレーターが手話や文字に変換して利用者に届ける。こうして、聞こえる人と同じように「電話」というコミュニケーション手段を使えるようにする仕組みなんです。

日本では、2020年に「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」(電話リレーサービス法)が成立し、2021年7月から公共インフラとしての本格運用が始まりました。運営は日本財団電話リレーサービス(FTRS)が担い、24時間365日、手話リレーと文字リレーの両方が利用できます。
通話料は一般の電話と同程度で、サービスの運営費は電話会社が負担する「電話リレーサービス料」(1番号あたり月額1円程度)で賄われています。つまり、私たちが毎月支払っている電話料金の中に、ほんの少しだけこのサービスを支える費用が含まれているのです。

なぜこの制度は生まれたのか―「電話が使えない」という見えない排除

電話リレーサービスの必要性は、聴覚障害のある人たちが長年にわたって訴え続けてきたものです。

日本では約34万人が聴覚・言語障害の身体障害者手帳を所持しています(厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」2022年)。しかし、手帳を持たない難聴者を含めると、聞こえに困難を抱える人は推計1,400万人以上とも言われています。

それにもかかわらず、2021年まで日本には公的な電話リレーサービスが存在しませんでした。聴覚障害のある人が電話をかけなければならないとき、家族や友人に代わりに電話してもらう、あるいはFAXやメールで対応してくれる相手を探す―そんな「自助努力」に頼らざるを得ない状況が、何十年も続いていたのです。

特に深刻だったのが緊急通報です。110番や119番は音声通話が前提で、聞こえない人が急病や犯罪被害に遭ったとき、すぐに助けを呼べないという命に関わる問題がありました。電話リレーサービス法の成立は、こうした「電話が使えないことによる排除」を制度的に解消するための大きな一歩だったのです。

2026年4月には、この法律の基本方針の改正が予定されており、2025年4月8日に改正案が公示されました。5月13日まで意見募集(パブリックコメント)が行われ、サービスの提供体制の拡充や品質向上が論点となっています。

海外ではどうしているか

電話リレーサービスの歴史を語るうえで外せないのがアメリカです。1990年に成立したADA(障害を持つアメリカ人法)の中で、電話リレーサービスの提供が通信事業者の義務として明記されました。日本より30年以上早い制度化です。

アメリカの電話リレーサービスは、連邦通信委員会(FCC)が監督し、運営費はすべての電話利用者が負担する仕組みです。ビデオリレー(手話通訳をビデオ通話で行う方式)も広く普及しており、利用者にとっての通話料は無料。年間の運営予算は約15億ドル(約2,200億円)に達します。

オーストラリアでは「National Relay Service(NRS)」が1995年から運用されており、テキスト、音声、ビデオの複数チャネルに対応しています。EU加盟国でも、2019年の「欧州アクセシビリティ法」により、2025年6月までに全加盟国で電話リレーサービスを含む情報アクセシビリティの確保が義務づけられました。

日本の電話リレーサービスは、開始からまだ4年足らず。利用登録者数は約1万3,000人(2024年3月時点)で、潜在的なニーズに対してまだまだ認知度が低いのが現状です。アメリカやオーストラリアの経験から学べることは多いはずです。

もうひとつの論点―「合理的配慮」と電話の関係

ここで、もう一つ重要な制度用語に触れておきたいと思います。「合理的配慮」です。

2024年4月から、改正障害者差別解消法により、民間事業者にも合理的配慮の提供が法的義務となりました。合理的配慮とは、障害のある人が他の人と同じようにサービスを利用したり、社会に参加したりできるよう、過重な負担にならない範囲で必要な調整を行うことです。

たとえば、ある企業が問い合わせ窓口を「電話のみ」にしている場合、聴覚障害のある人はサービスを利用できません。これは合理的配慮の不提供にあたる可能性があります。メールやチャットなど代替手段を用意すること、あるいは電話リレーサービス経由の電話を受け付けること――こうした対応が「合理的配慮」として求められるようになっているのです。

実際、電話リレーサービス経由の電話に対して「本人確認ができない」「代理の電話は受け付けられない」と断られるケースが報告されています。しかし、電話リレーサービスは「代理電話」ではなく、本人が通訳を介して行う本人の電話です。この理解が広まらなければ、せっかくの制度も機能しません。

障害者を雇用する事業主必見!「合理的配慮」の具体例を紹介

私たちが考えなくてはいけないこと―「電話できますか?」を問い直す

電話リレーサービスは、聴覚障害のある人だけの問題ではありません。この制度が問いかけているのは、「私たちの社会は、特定のコミュニケーション手段を使えない人を排除していないか?」という、もっと大きな問題です。

電子処方箋のデジタル化、オンライン行政手続きの拡大、AIを活用した自動字幕や音声認識―テクノロジーの進歩は、情報アクセシビリティの可能性を大きく広げています。しかし同時に、デジタルデバイド(情報格差)という新たな壁も生まれています。

大切なのは、「電話できますか?」という問いを、「あなたに合ったコミュニケーション手段を選べますか?」に変えていくことではないでしょうか。

電話リレーサービスのパブリックコメントは、誰でも意見を出すことができます。「自分には関係ない」と思わずに、一度、制度の中身を覗いてみてください。それが、すべての人にとってアクセシブルな社会への第一歩になるはずです。

電話リレーサービスの使い方:電話リレーサービス参考:総務省「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」関連ページ:基本方針、パブリックコメント情報など

執筆者プロフィール

TOPへ