
67万人という数字の重み
生まれてくる子どもの数が減っている——そう聞くと、多くの人は「将来の話」だと感じるかもしれません。けれど、長年の少子化による働く世代の減少は、いま人材確保に向き合う福祉の現場にとっても、無関係ではありません。ただし、直近の出生数の減少が、今日の人手不足を直接引き起こしているわけではありません。
2026年9月に厚生労働省が公表した人口動態統計の確定数によると、2025年の出生数は67万1,270人。前年から1万4,903人減少し、1899年の調査開始以来、最少となりました。この数字は、日本国内で発生した日本人の出生を集計したものです。
一方、2026年1〜7月の人口動態統計速報では、出生数は累計40万4,547人で、前年同期比0.5%増でした。速報には国内の外国人や国外の日本人なども含まれるため、確定数とは集計範囲が異なります。短期間の増減と長期的な少子化は、分けて見る必要があります。
65歳以上の高齢者人口は3,622万人、高齢化率は29.4%です(内閣府「令和8年版高齢社会白書」、2025年10月1日時点)。
生まれてくる人が長期的に減り、人口に占める高齢者の割合が高くなる。この構造が福祉の現場に何をもたらすのか、3つの視点から見ていきます。
1. 介護人材の不足—「求人を出しても応募がない」という課題
介護関係職種の有効求人倍率は、2025年の全国の値で4.03倍でした(内閣府「令和8年版高齢社会白書」)。求職者1人に対して、約4件の求人がある状況です。ただし、この数字は求人と求職者の比率であり、応募者数や採用できる確率を示すものではありません。
厚生労働省が2024年に公表した推計では、2040年度に必要な介護職員数は約272万人。2022年度の実績が約215万人ですから、約57万人多い人数が必要と見込まれています。この57万人は2022年度実績との差であり、現時点の不足人数を示すものではありません。
出生数の減少が続けば、将来、働く世代に加わる人数にも影響します。介護の仕事を選んでくれる人を増やす努力はもちろん必要ですが、限られた働き手の奪い合いだけでは限界があります。
現場で問われるのは、採用だけではありません。夜勤を担える職員が足りなければ、空きベッドがあっても入所者の受け入れを増やせない場合があります。「建物はある、部屋もある、でも人がいない」。そうした状況を防ぐには、処遇改善や勤務体制の見直し、負担の軽減を通じて、いま働いている職員が続けられる環境を整えることも必要です。
2. 利用者構造の変化—「需要が増える地域」と「減る地域」の二重構造
「介護サービスの利用者が減っている」という声もありますが、ここは少し丁寧に見る必要があります。
内閣府の「令和8年版高齢社会白書」では、近年の介護サービス利用者数について、地域密着型サービスと施設サービスは横ばい傾向、居宅サービスは上昇傾向としています。つまり「介護の利用者が減っている」と、全国のサービスを一括りにするのは正確ではありません。
ただし、地域差は非常に大きい。厚生労働省は、都市部などで介護需要の増加に対応する必要がある一方、中山間・人口減少地域では、需要が減る中でサービス基盤を維持することが課題になるとしています。
利用者が減れば、事業所の運営は難しくなります。しかし、利用者が広い範囲に点在していれば、訪問や送迎の負担が同じ割合で減るわけではありません。1つの事業所がなくなったとき、残る事業所で支援を担えるのか。地域の需要と提供体制を合わせて考える必要があります。
もう一つ見落とせないのが、出生数の減少が障害児支援や児童福祉の分野にもたらす影響です。放課後等デイサービスの事業所数・利用者数は、制度創設以降、大きく増加してきました。
ただし、子どもの数そのものが減るからといって、利用児童数も同じように減るとは限りません。支援ニーズの把握、相談や申請へのつながりやすさ、サービスの供給体制なども関わるためです。出生数だけを根拠に、利用者数の伸びがいつ頭打ちになるかを断定することはできません。
「需要が増える地域・サービス」と「需要が減る地域・サービス」が同時に存在する。この構造を理解しないまま一律に語ると、現場の実態を見誤ります。
3. 経営の持続可能性—「報酬単価×サービス提供量」のバランスが崩れるとき
福祉事業の多くは、介護報酬や障害福祉サービス等報酬といった公定価格を中心に運営されています。収入を左右するのは、報酬単価とサービスの提供量です。
ただし、実際の収入は利用者数だけでは決まりません。利用日数・回数・時間、要介護度や支援の区分、加算・減算などによって変わります。利用者や利用回数が減れば収入は減りやすい一方、人件費や賃料などの費用を同じように減らせるとは限りません。
東京商工リサーチの調査によると、2025年の「老人福祉・介護事業」の倒産件数は過去最多の176件を記録しました。2024年の172件を上回り、2年連続の最多更新です。特に訪問介護は91件と、前年の81件から増えています。
この調査は負債1,000万円以上の倒産を対象としており、休廃業・解散や、閉鎖した事業所すべてを数えたものではありません。
人手不足、運営コストの上昇、そして地域によってはサービス需要の減少——複数の要因が重なり、事業を続ける難しさが増しています。ただし、これらの倒産を出生数の減少が直接引き起こしたと判断することはできません。
ここで大切なのは、事業所が1つ閉じるということは、そこに通っていた人の生活が変わるということです。たとえば、毎週火曜と金曜にデイサービスに通い、顔なじみの職員と話すのを楽しみにしていた人。その場所がなくなれば、新しい事業所や別の支援を探す必要があります。選択肢が少ない地域ほど、影響は深刻になります。
では、何ができるのか

課題の大きさに比べると、1つひとつの取り組みは小さく見えるかもしれません。それでも、人材確保や業務改善、事業者間の連携を組み合わせることが、サービスを維持するための取り組みになります。
介護ロボットやICTの活用
見守りセンサーや記録の電子化は、職員の負担を見直すための選択肢です。2024年度の介護報酬改定では、テクノロジーの活用と継続的な業務改善などを評価する「生産性向上推進体制加算」が設けられました。
これとは別に、一部のサービスでは、見守り機器の導入や安全確保など、複数の条件を満たす場合の人員配置基準の特例等も設けられています。加算を算定すれば、自動的に夜勤職員を減らせるわけではありません。
「機械に任せられることは機械に」という発想は、人手不足の現場では現実的な選択肢です。ただし、導入費用や維持費、職員への研修、安全性も含めて検討してください。機器を入れること自体ではなく、負担の軽減と支援の質につながるかを確認することが重要です。
複数事業所の連携
人口減少が進む地域では、1つの法人がすべてを抱え込むのではなく、複数の事業者が研修を合同で行ったり、採用活動や物品調達で協力したりする方法も考えられます。
送迎の共同化や職員の共同配置などを検討する場合は、人員基準・運営基準、契約、責任分担の確認が必要です。自治体や関係機関と、地域に必要な支援をどう残すかを整理してください。
外国人材の受け入れと定着支援
EPA(経済連携協定)や特定技能制度などを通じて外国人材を受け入れる場合は、制度ごとの要件を確認するとともに、日本語学習や資格取得、生活上の相談を支える体制が必要です。
「来てくれてありがとう」で終わらせず、仕事の進め方や評価、キャリアの見通しまで共有すること。国籍にかかわらず、困ったときに相談でき、働き続けられる受け入れ体制が問われています。
若い世代との接点づくり
福祉の仕事に触れる機会が少なければ、選択肢にも入りません。中学・高校での福祉体験や、大学などの実習受け入れを、仕事を具体的に知ってもらう場として考えることも重要です。
給与や処遇の改善は大前提ですが、「この仕事っていいな」と思える機会をつくることも、長い目で見れば人材確保の土台になります。その際は、やりがいだけでなく、勤務時間、教育体制、負担への対策、キャリアの選択肢も伝えてください。
数字の向こうにある暮らし
人口動態統計は、マクロな数字の集まりです。けれど、約67万という2025年の出生数の裏には、一人ひとりの赤ちゃんとその家族の暮らしがあります。そして、3,622万人の高齢者の一人ひとりにも、日々の食事や通院、人との交流など、それぞれの日常があります。
人口構造の変化は、短期間で大きく変えられるものではありません。でも、「人が減るから仕方ない」で終わらせないために、取り組めることはあります。現場の職員が働き続けられる環境をつくること。事業所が閉じても、その地域に暮らす人が必要な支援につながれる仕組みを残すこと。
そのためには、全国の出生数だけでなく、地域の年齢構成や支援ニーズ、採用・離職、事業所の利用状況と収支を確認する必要があります。
小さな工夫の積み重ねが、数字だけでは見えない暮らしを支えています。人口の変化を確かめながら、地域で必要な支援を続ける方法を考えていくことが重要です。
参考:
厚生労働省「令和7(2025)年人口動態統計(確定数)の概況」(2026年9月30日公表)厚生労働省「人口動態統計速報(令和8(2026)年7月分)」(2026年9月25日公表)内閣府「令和8年版高齢社会白書(概要版)高齢化の状況及び高齢期の暮らしの動向」(2026年版)内閣府「令和8年版高齢社会白書(全体版)健康・福祉」(2026年版)厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(2024年7月12日公表)厚生労働省「医療と介護の一体的な改革」こども家庭庁「こども施策及び障害児支援施策の最近の動向について」(2024年12月25日資料)東京商工リサーチ TSRデータインサイト「2025年『介護事業者』倒産 過去最多の176件 『訪問介護』の倒産が突出、認知症GHも増加」(2026年1月9日公表)厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について」(2024年度改定資料)
執筆者プロフィール

主に福祉関連を中心に活動するライター
制度の枠組みから心の機微までを丁寧に言語化する傍ら、暮らしを彩るモノ・コトへの感性も鋭い。専門性の高い記事から、軽やかなエッセイ、実用的なレビューまで、多角的な視点で「日常の価値」を編み直す。