OTC類似薬の追加負担で薬代はいくら増える?障害者の家計で試算した

OTC類似薬の追加負担で薬代はいくら増える?障害者の家計で試算した

「湿布もビタミン剤も自腹で」と聞いて、最初に頭に浮かぶ暮らしがある

統合失調症の治療を続けながら、就労継続支援B型の事業所に通う人の暮らしを考えてみたい。工賃と障害基礎年金を合わせて生活し、腰痛のために主治医から処方される湿布薬を欠かさず使っている。「湿布がなくなると作業台に立てない」という人にとって、薬代の変化は働き続けられるかどうかにも関わる話だ。

いま進んでいる「OTC類似薬の保険給付見直し」は、まさにその湿布薬のような薬も対象になる話だ。薬局で処方箋なしに買える薬(OTC薬)との代替性が高い医療用医薬品について、薬剤費の一部を保険給付の対象外とする制度である。健康保険法等の改正と関係政省令等の整備を経て、2027年3月1日から始まることが決まっている。

この記事では、「結局、誰の財布がいくら軽くなるのか」を、障害のある人の家計モデルで具体的に試算してみる。

そもそも「OTC類似薬の追加負担」とは何か

まず用語を整理したい。OTC薬とは「Over The Counter」に由来する呼び方で、医師の処方箋がなくても購入できる市販薬のことだ。風邪薬、胃腸薬、湿布、ビタミン剤、一部の花粉症薬などが代表例になる。

一方、病院で医師に処方してもらう薬(医療用医薬品)の中には、市販のOTC薬と成分などが共通するものがある。これが「OTC類似薬」と呼ばれる。たとえばロキソプロフェン(痛み止め)、フェキソフェナジン(花粉症薬など)は、処方薬としても市販薬としても手に入る。ただし、同じ成分でも承認された効能・効果や用法・用量がすべて同じとは限らない。

今回の見直しの背景には、OTC薬を自費で購入する人との公平性や、医療保険制度の持続可能性を確保するという考え方がある。

今回決まった制度は、対象薬の薬剤費の一部について、通常の保険診療での自己負担とは別に負担を求めるものだ。薬剤費の4分の1を「特別の料金」とし、残り4分の3に通常の保険の自己負担割合を適用する「一部保険外療養」という仕組みで、対象薬が全額自己負担になるわけではない。

2027年3月1日から実施され、施行時点の対象は77成分・1,042品目となる。ただし、国の公費負担医療の対象として使用する場合など、特別の料金を求めない条件も定められている。

厚生労働省が実施した中間とりまとめや関係政令案の意見募集は、すでに終了している。現在は施行に向けた準備が進んでいる段階だ。

「市販で買えるなら自分で買って」は、誰にとっての話か

この議論には、一見すると合理的な響きがある。「同じ薬が薬局で買えるなら、保険財政に頼らなくてもいいだろう」という理屈だ。

しかし、ここで立ち止まって考えたい。処方薬として受け取る場合と、市販薬を自分で購入する場合では、負担額の決まり方が違う。今回の制度でも、市販薬への切り替えが義務付けられるわけではなく、必要な受診と処方は引き続き可能だ。

具体例を見てみよう。花粉症にも使うフェキソフェナジンなど、対象薬の薬剤費が1か月1,000円で、3割負担、追加負担の対象外となる条件に該当しない場合を考える。

  • 現在、処方薬として受け取る場合:1,000円×30%=約300円
  • 見直し後も処方薬として受け取る場合:1,000円×75%×30%+1,000円×25%=約475円

差額は月約175円。同じ薬剤費で12か月使用したと仮定すれば、年約2,100円の負担増になる計算だ。花粉症で季節的に使う場合は、その使用月数で計算する必要がある。

※以下を含め、試算は薬剤費のみの概算です。診察料・調剤に関する技術料、点数化や端数処理、薬価改定による差は含めていません。「特別の料金」の消費税の取り扱いは、2026年9月30日の厚労省事務連絡で年末を目途に示すとされているため、試算に含めていません。現時点の最終的な税の取り扱いは確認できません。1,000円は計算用の仮定で、特定製品の実際の1か月分の薬価ではありません。

さらに、精神疾患の継続的な通院治療を受ける人が利用できる「自立支援医療(精神通院医療)」では、対象医療の自己負担が原則1割に軽減され、所得区分などに応じた月額上限が設けられている。

今回の制度では、国の公費負担医療の対象として使う薬は、特別の料金の対象外となる。したがって、自立支援医療の対象薬に一律に追加料金が発生し、上限の外側へ丸ごとはみ出すという説明は正しくない。ただし、精神疾患と関係のない腰痛や花粉症の治療は、自立支援医療の対象になるとは限らない。同じ人の処方でも、薬ごとに使用目的と適用制度を確認する必要がある。

障害のある人の家計モデルで試算する

ここからは、実際の家計に近いモデルで負担増を試算してみたい。追加負担の有無は、障害の有無や収入だけで決まるものではないことに注意が必要だ。

モデルA:障害基礎年金2級+就労継続支援B型利用の単身者

  • 月収:障害基礎年金2級(月換算約7万600円)+工賃(月1万5,000円と仮定)=約8万5,600円
  • 自立支援医療の自己負担:月2,500円を支払っていると仮定。所得区分・上限額は受給者証で確認する。
  • 現在の処方薬:抗精神病薬+湿布薬(ロキソプロフェンテープ)+胃薬(ファモチジン)

※年金額は2026年度の障害基礎年金2級年額84万7,300円(昭和31年4月2日以後生まれ、子の加算なし)を12で割った概算です。工賃は全国平均ではなく、この家計モデルの仮定です。年金生活者支援給付金などは含めていません。

湿布薬は対象品目に該当し、自立支援医療や自治体の医療費助成は適用されず、長期使用などによる追加負担の対象外の条件にも該当しないものと仮定する。湿布薬の薬剤費を月1,000円、通常の自己負担を3割とすると、以下のような変化が起きる。

なお、ファモチジンは今回公表された対象77成分に含まれない。市販薬と同じ成分の処方薬がすべて、今回の追加負担の対象になるわけではないため、胃薬の費用は比較表から除いている。抗精神病薬と胃薬を含む、自立支援医療の対象となる医療の負担を月2,500円と仮定するが、胃薬が実際に自立支援医療の対象になるかどうかは、処方の目的などによって異なる。

項目 現在 見直し後(試算)
自立支援医療の自己負担 2,500円/月(仮定) 2,500円/月(同額と仮定)
湿布薬の保険内の自己負担 約300円/月 約225円/月
湿布薬の特別の料金 0円 約250円/月
比較対象の合計負担 約2,800円/月 約2,975円/月

月収約8万5,600円に対して、比較対象の負担は約2,800円から約2,975円に増える。月約175円の増加で、年間では約2,100円の負担増だ。これは、対象薬の薬剤費を月1,000円と置いた場合の概算であり、薬の量や種類が増えれば金額も変わる。湿布薬も自立支援医療の対象として使う場合や、長期使用などの対象外の条件に該当する場合、この追加負担は発生しない。

モデルB:一方が障害基礎年金2級、もう一方が障害厚生年金3級を受給する夫婦世帯

  • 世帯月収:約15万円(年金のみと仮定)
  • 自立支援医療を利用する場合、自己負担上限は受給者それぞれの受給者証で確認する。夫婦世帯全体で一律5,000円になるわけではない。
  • 夫婦それぞれが花粉症薬・湿布薬などを処方され、そのうち追加負担の対象となる薬の薬剤費が1人月2,000円、通常の自己負担が3割と仮定する。

2人分の対象薬の薬剤費は月4,000円。公費負担医療や自治体の助成は適用されず、追加負担の対象外の条件にも該当しない場合、薬剤費の自己負担は現在の約1,200円から見直し後の約1,900円になり、世帯で月約700円の追加負担になる。12か月使用すると仮定すれば年約8,400円で、年金収入180万円の約0.47%に相当する。季節的に使う薬は実際の使用月数に合わせて計算する必要があり、障害があることや住民税非課税であることだけから、この金額になるとは判断できない。

見落とされがちな「受診抑制」のリスク

数字だけを見ると「月に数百円なら何とかなるのでは」と感じる人もいるかもしれない。しかし、障害のある人の中には、家計に「余白」がほとんどない人もいる。

家賃、光熱費、食費、通信費、移動のための交通費。グループホームの利用料がかかる人もいる。月8万円台の収入では、負担増が「薬を減らす」「受診を先延ばしにする」という判断につながらないか、注意が必要だ。

とくに心配なのは、湿布や胃薬のような「命に直結しないと思われがちな薬」から自己判断で削られていくことだ。ただし、今回の対象薬であるかどうかと、その人の治療に必要かどうかは別の問題である。痛みや薬の副作用への対応を自己判断で中断すると、作業所への通所や治療の継続に支障が出るおそれがある。

精神科医療の現場では、医師が処方に組み込んでいる薬には、症状への対応や服薬管理などの理由がある。「市販で同じ成分が買えるから」という理由だけで自己判断で処方薬をやめたり、市販薬を追加したりせず、主治医や薬剤師に相談してほしい。

自立支援医療の「上限管理」との整合性

今回の見直しで制度設計上気になるのは、自立支援医療の負担上限制度との関係だ。

自立支援医療は「精神疾患の治療にかかる医療費の負担を軽くする」ための制度であり、所得区分などに応じた月額上限が設けられている。この仕組みがあるからこそ、低所得の当事者も通院を続けやすくなる。

今回、国の公費負担医療の対象として使う薬は、特別の料金の対象外とされた。自立支援医療の対象となる薬について、一律に上限を超える追加負担が発生するわけではない。

一方、自立支援医療の受給者であっても、その対象外である腰痛や花粉症などの治療まで自動的に除外されるわけではない。自治体独自の障害者医療費助成についても、国の公費負担医療と同じ扱いだと一律には判断できないため、助成窓口に確認する必要がある。

「この薬は本当に必要か」を決めるのは誰か

制度の見直し自体を全否定するつもりはない。限りある保険財政の中で、給付の優先順位を考えることは避けられない議論だ。

ただ、「市販で買えるかどうか」という基準だけで線を引くと、そこからこぼれ落ちる人が出るおそれがある。大切なのは、「この薬がこの人にとってどういう意味を持っているか」を判断できる仕組みを残すことだと思う。

今回の制度では、国の公費負担医療のほか、子ども、がんや指定難病に関連する治療、入院中の使用、一定の条件を満たす長期使用、OTC薬の効能・効果では対応できない状態への使用などについて、特別の料金を求めない仕組みが設けられた。ただし、医師が単に「処方が必要」と判断すれば、すべて対象外になるわけではない。対象外となる条件が医療現場で適切に確認され、患者にも分かりやすく説明されることが大切だ。

今できること、これから見ておくこと

今回の見直しは、2027年3月1日からの実施が決まっている。対象薬や特別の料金を求めない条件も公表された。だからこそ、いまの段階で「自分の処方薬に対象薬が含まれているか」を確認しておくことには意味がある。

主治医や薬剤師に「いま使っている薬は、今回の追加負担の対象ですか。公費負担医療や長期使用などの対象外の条件に当てはまりますか?」と聞いてみてほしい。それだけで、今後の制度変更が自分の家計にどう響くか、見通しが立てやすくなる。

また、本文で取り上げた意見募集は、中間とりまとめについては2026年8月20日、関係政令案については2026年9月6日に終了しており、現在は提出できない。今後の制度運用や見直しに関する公表資料を確認するとともに、負担が心配な場合は主治医、薬剤師、自治体の助成窓口などに相談してほしい。

湿布薬1枚が、誰かの「働ける1日」を支えている。その1枚の重みが、制度を設計する人たちにも伝わるといい。

参照元(出典)

  1. 厚生労働省「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しについて」(2026年9月30日更新)
  2. 厚生労働省「要指導医薬品又は一般用医薬品との代替性が特に高い医療用医薬品の処方又は調剤に係る一部保険外療養について」(2026年9月30日通知)
  3. 厚生労働省「一部保険外療養における費用の計算方法について」(2026年9月30日事務連絡)
  4. 日本年金機構「障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額」(2026年4月1日更新)
  5. 厚生労働省「自立支援医療(精神通院医療)の概要」(2026年10月29日確認)
  6. e-Gov「OTC類似薬の保険給付の見直しの実施に向けた中間とりまとめ」に関する意見公募(2026年8月20日受付終了)
  7. e-Gov「健康保険法等の一部を改正する法律の一部の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令案」に関する意見募集(2026年9月6日受付終了)

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