
「ユニバーサルサービス」という言葉を、電話料金の明細で見かけたことはありませんか。毎月数円ほど、「電話ユニバーサルサービス料」などの名目で請求されるあの項目です。固定電話や公衆電話などを支えてきたこの制度には、現在、光回線などのブロードバンドも加わっています。2026年8月には、電話やブロードバンドの提供を地域で確保するための仕組みを整える省令案が公示されました。
この変化は、障害のある方や高齢の方、過疎地域に暮らす方の生活に関わります。今回は「ユニバーサルサービス制度」そのものを取り上げ、制度の基本から歴史的背景、運用の実際、そしてこれからの課題まで、順を追って解説します。
この制度って何?
ユニバーサルサービス制度とは、「日本全国どこに住んでいても、一定の通信サービスを利用できるようにする」ための仕組みです。
通信事業者が山間部や離島など採算の取りにくい地域にもサービスを維持できるよう、対象となる通信事業者が費用を分担し、支援機関を通じて提供事業者を支える仕組みです。電話のユニバーサルサービスの主な対象は以下のとおりです。
- 加入電話(加入電話に相当する光IP電話などを含む)
- 第一種公衆電話、災害時用公衆電話
- 緊急通報(110番・118番・119番)
電話の事業者負担金を算定する番号単価は、2026年1月から1番号あたり月額2円です。たとえば、NTT東日本では、利用者に請求する電話ユニバーサルサービス料を1番号あたり月額2.2円(税込)としています。
ブロードバンドのユニバーサルサービスでは、光ファイバーなど一定の要件を満たす固定ブロードバンドが対象です。交付金制度では、不採算地域での安定した提供、未整備地域の解消、公設設備から民設設備への転換を支援します。
なぜこの制度は生まれたのか
電話の時代の「つながる権利」
ユニバーサルサービスという考え方は、もともと電話の普及とともに生まれました。日本では、電話の提供に必要な費用の一部を通信事業者が分担する仕組みが、2006年度に始まりました。
背景にあったのは、通信自由化の波です。1985年の電電公社民営化以降、通信市場には多くの事業者が参入しました。競争が活発になる一方で、採算の取りにくい地域でもサービスをどう維持するかが課題になりました。都市部に住む人には選択肢が増えても、過疎地に暮らす人が電話を使えなくなっては困ります。そこで、対象となる事業者が費用を分担する仕組みが制度化されました。
固定電話からインターネットへ
その後、社会のインフラは大きく変わりました。総務省の「通信利用動向調査」(2023年)によると、日本のインターネット利用率は個人ベースで86.2%でした。行政手続きのオンライン化、遠隔医療、オンライン教育——生活のさまざまな場面でインターネット接続が必要になっています。
こうした変化を受けて、2022年の電気通信事業法改正でブロードバンドがユニバーサルサービスに追加され、関係規定は2023年6月16日に施行されました。ブロードバンドの費用を事業者間で分担する仕組みは2026年に始まっています。
2026年8月に公示された省令案は、2025年5月公布の改正法に基づくものです。複数の事業者が連携して電話やブロードバンドの提供を確保する「最終保障提供責務」の導入に向け、事業者がサービスの提供状況を確認する手続きや、交付金に関する規定などを整える内容です。
運用の実際—地域や立場で異なる「つながりやすさ」

光回線が届かない地域はまだある
総務省の資料によると、2023年3月末時点の光ファイバーの世帯カバー率は99.84%で、未整備は約10万世帯と推計されていました。世帯カバー率は、光回線を利用できると推計された世帯の割合です。回線が届く地域でも、費用や申し込み手続きなどが契約のハードルになる場合があります。
山間部や離島など、光回線の整備が難しい場所では、地域の条件に応じて、無線や衛星通信なども接続手段の候補になります。
障害のある方にとっての「つながる」とは
ブロードバンドの提供を支えることは、障害のある方が通信サービスを利用するうえでも意味があります。
たとえば、聴覚や発話に困難のある方が利用する電話リレーサービスでは、通訳オペレーターが手話または文字と音声を通訳します。手話を使う場合は、オペレーターとビデオ通話でつながり、相手先に音声で伝えてもらいます。映像が途切れれば、手話の読み取りに支障が出るため、安定したインターネット接続が重要です。
電話リレーサービスは2021年7月1日に公共インフラとして開始されました。日本財団によると、2025年3月末時点で約1万7,400番号の利用登録がありました。
視覚に障害のある方にとっても、インターネットは情報にアクセスする手段です。スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)を使ってウェブサイトを閲覧する、音声アシスタントで情報を検索するなど、オンラインで情報を得る場面では通信環境が欠かせません。
肢体に障害のある方が在宅で就労する場合にも、安定した通信環境は重要です。オンラインで業務連絡や作業を行う場合、接続が不安定だと、在宅で働く選択肢が限られることがあります。
費用負担はどう変わる?
電話とブロードバンドでは、事業者の負担金を別々に算定します。電話は電話番号を単位とし、ブロードバンドは回線を単位とします。
電気通信事業者協会によると、2026年度のブロードバンドの事業者負担金は1回線あたり年額2円です。利用者への請求の有無や時期は、契約先の事業者によって異なります。たとえば、NTT東日本は、2026年の対象サービスについて、3月利用分のみ1回線あたり2.2円(税込)を請求すると案内しています。
私たちが考えなくてはいけないこと
「つながる」だけでは足りない
ブロードバンドがユニバーサルサービスに加わったことは、大きな前進です。しかし、回線が届くことと、実際に使いこなせることは別の問題です。
高齢の方がインターネットの契約手続きに戸惑う。視覚障害のある方がアクセシブルでないウェブサイトに阻まれる。知的障害のある方が複雑な料金プランを理解しづらい。——こうした「回線の先にあるバリア」は、インフラ整備だけでは解消できません。
制度でブロードバンドの提供を支えるとともに、利用支援(デジタルリテラシーの向上、端末の操作支援、アクセシブルなサービス設計)も一体的に考える必要があります。
電話リレーサービスの「次」
電話リレーサービスは、聴覚や発話に困難のある方が、電話をかけたり受けたりするための仕組みです。チャットやビデオ通話が当たり前になった時代に、電話以外の場面ではどのような支援が必要でしょうか。たとえば、オンライン会議での手話通訳、映像コンテンツへの字幕付与など、コミュニケーション保障の範囲をどこまで広げるかは、今後の大きな論点です。
あなたの「当たり前」は誰かの「届かない」かもしれない
毎月数円の電話ユニバーサルサービス料は、ふだん意識することのない小さな金額です。でも、その数円が積み重なって、採算の取りにくい地域の電話サービスを支えてきました。ブロードバンドにも、事業者が費用を分担して支える仕組みができています。
今回の制度見直しをきっかけに、「通信がつながること」の意味を、少し立ち止まって考えてみてほしいと思います。自分にとっては空気のように当たり前のインターネットが、誰かにとっては手の届かないものになっていないか。その問いを持つことが、制度をより良くする第一歩になるはずです。
もう少し知りたい方へ
- 電気通信事業者協会「電話のユニバーサルサービス」
制度の仕組み、対象サービス、番号単価などを確認できます。 - 電気通信事業者協会「ブロードバンドユニバーサルサービス Q&A」
対象となるサービス、交付金や負担金の仕組みを確認できます。 - 日本財団電話リレーサービス 公式サイト
利用方法や登録手続きを確認できます。電話を受ける側の方にも参考になります。
参考:e-Gov法令検索「電気通信事業法」e-Gov「新たなユニバーサルサービス制度に係る規定の整備」(2026年8月29日公示)NTT東日本「ユニバーサルサービス制度」NICT「高齢者のインターネット利用率」(総務省の2023年調査に基づく)総務省資料「光ファイバの整備状況」(2023年3月末時点)政府広報オンライン「電話リレーサービス」日本財団「電話リレーサービスの利用登録数」(2025年3月末時点)
執筆者プロフィール

主に福祉関連を中心に活動するライター
制度の枠組みから心の機微までを丁寧に言語化する傍ら、暮らしを彩るモノ・コトへの感性も鋭い。専門性の高い記事から、軽やかなエッセイ、実用的なレビューまで、多角的な視点で「日常の価値」を編み直す。