「罪を犯した障害者」の出口を誰がつくるのか——地域生活定着支援センターと触法障害者支援の基本を知る

「罪を犯した障害者」の出口を誰がつくるのか——地域生活定着支援センターと触法障害者支援の基本を知る

この制度(しくみ)って何?——「地域生活定着支援センター」を知っていますか

「罪を犯した障害者」。この言葉を聞いたとき、あなたはどんな感情を抱くでしょうか。怖い、自業自得だ、でもちょっとかわいそう——いろんな気持ちが混ざるのは、ごく自然なことだと思います。

でも、少しだけ立ち止まって考えてみてほしいのです。刑務所を出た後、帰る場所がない。福祉の窓口にたどり着けない。障害があるのに、そもそも「自分に障害がある」と認識できていない。そんな人たちが、何度も軽微な犯罪を繰り返してしまう——いわゆる「累犯障害者」の問題は、NHKハートネットTVの特集「罪を犯した障害者と向き合う」でも取り上げられ、静かに、しかし確実に社会の課題として浮かび上がっています。

この記事では、そうした人たちの「出口」をつくるために設けられた「地域生活定着支援センター」という制度を中心に、触法障害者支援の全体像をできるだけ噛み砕いてお伝えします。海外の事例とも比較しながら、「罰と支援の間」で私たちが何を考えるべきか、一緒に見ていきましょう。

1. この制度って何?——地域生活定着支援センターの役割

刑務所と福祉をつなぐ「橋渡し役」

地域生活定着支援センターは、刑務所や少年院を出た後に、高齢であったり障害があったりして自力での生活が難しい人を、福祉サービスにつなぐための専門機関です。2009年度から国の事業として整備が始まり、現在は全国47都道府県すべてに各1か所ずつ設置されています。

具体的にどんなことをしているのか、3つの柱で整理してみましょう。

  • コーディネート業務(入口支援に近い調整):刑務所に入っている段階から、本人の障害特性や生活歴を把握し、出所後に利用できる福祉サービス(グループホーム、障害福祉サービス事業所など)を調整します。
  • フォローアップ業務:出所後、実際に地域で暮らし始めた人の生活を一定期間見守り、困りごとがあれば関係機関と連携して対応します。
  • 相談支援業務:本人だけでなく、受け入れ側の福祉施設や地域住民からの相談にも応じます。

厚生労働省の統計によれば、2022年度のセンターによる支援対象者の調整件数は全国で年間約1,600件前後。そのうち知的障害のある人が最も多く、次いで精神障害、身体障害と続きます。高齢受刑者の支援ニーズも年々増えている状況です。

更生保護と障害福祉サービス——2つの制度の「すきま」

触法障害者の支援を理解するには、更生保護と障害福祉サービスという2つの制度も押さえておく必要があります。

  • 更生保護は法務省の所管で、保護観察官や保護司(地域のボランティア)が、刑を終えた人の社会復帰を支えます。全国に約4万7,000人いる保護司が地域の見守り役を担っていますが、高齢化や担い手不足が深刻な課題です。
  • 障害福祉サービスは厚生労働省の所管で、障害者総合支援法に基づくグループホーム、就労継続支援(A型・B型)、生活介護などが含まれます。2024年度の障害福祉関係予算は約4兆円規模に達しており、年々拡大しています。

ポイントは、この2つの制度が異なる省庁の管轄であるということ。刑事司法の「出口」と福祉の「入口」の間には、制度上の壁が存在します。地域生活定着支援センターは、まさにこの壁に橋を架けるために生まれた機関なんです。

2. なぜこの制度は生まれたのか——「累犯障害者」問題の衝撃

きっかけは一冊のルポルタージュ

地域生活定着支援センターが制度化された背景には、2000年代に社会問題として注目された「累犯障害者」の存在があります。

元衆議院議員の山本譲司氏が2003年に発表した手記、そして2006年の著書『獄窓記』『累犯障害者』は、大きな反響を呼びました。刑務所の中に、知的障害や精神障害のある人が少なくない割合で収容されていること。彼らの多くが、福祉的支援を一度も受けないまま、万引きや無銭飲食といった軽微な犯罪を繰り返し、何度も刑務所に戻ってきていること——。

法務省の矯正統計によれば、新たに刑務所に入所する受刑者のうち、知的障害の疑いがある人(おおむねIQ70未満相当)は約2割にのぼるとされています。しかし、その多くが療育手帳を持っておらず、障害者として認定されていないために、福祉サービスの対象にすらなっていませんでした。

「罰」だけでは解決しない

この問題が突きつけたのは、「罰を与えれば更生する」という前提そのものへの疑問でした。

障害によってそもそも社会のルールを十分に理解できない人、生活を自力で組み立てることが難しい人に対して、懲役刑を繰り返すことに、どれほどの意味があるのか。必要なのは「罰」ではなく「支援」ではないか。そうした議論が、2008年の「刑事施設における知的障害者の実態と処遇に関する研究」などを経て、2009年度の地域生活定着支援センター事業の創設につながりました。

3. 海外ではどうしているか——「治療的司法」という考え方

日本の制度を考えるうえで、海外の取り組みを知ることはとても大切です。「日本の常識」が「世界の常識」とは限らないからです。

ノルウェー——「人間の尊厳」を軸にした刑事政策

ノルウェーは、世界的にも再犯率が低い国として知られています(出所後2年以内の再犯率は約20%。日本の2年以内再入率は約18%ですが、起訴猶予や執行猶予を含めた広義の再犯率では日本の方が高い傾向があります)。

ノルウェーの刑事政策の根底にあるのは、「刑罰の目的は復讐ではなく、社会復帰である」という哲学です。刑務所内では、精神障害や知的障害のある受刑者に対して多職種チーム(精神科医、心理士、ソーシャルワーカーなど)による個別の治療・支援プログラムが提供されます。出所後の住居や就労先の確保も、刑の執行中から計画的に進められます。

特筆すべきは、ノルウェーでは刑務所の最長刑期が原則21年であり、「社会から永久に排除する」という発想がきわめて薄いこと。障害のある受刑者も、いずれ地域に戻ることを前提に処遇が設計されています。

ドイツ——「社会治療施設」という選択肢

ドイツには、社会治療施設(Sozialtherapeutische Anstalt)と呼ばれる特別な施設があります。これは通常の刑務所とは異なり、性犯罪や暴力犯罪を繰り返す受刑者——その中には精神障害や発達障害のある人も含まれます——に対して、集中的な治療プログラムを提供する施設です。

ドイツの特徴は、刑罰と治療を法的に明確に区別している点です。裁判所が「責任能力が限定的」と判断した場合、刑務所ではなく精神科病院や社会治療施設への収容を命じることができます。地域に戻る際には、保護観察官と福祉機関が連携して生活支援を行う仕組みが整っています。

日本との違いは何か

海外と比較して見えてくる日本の特徴は、大きく3つあります。

  1. 司法と福祉の連携が制度的に弱い:日本では法務省と厚労省の縦割りが依然として課題。地域生活定着支援センターはその橋渡し役ですが、各県1か所という体制では十分とは言えません。
  2. 「治療的司法」の法的枠組みが未整備:医療観察法(2005年施行)は重大犯罪に限定されており、軽微な累犯を繰り返す障害者には適用されません。
  3. 出所後の「受け皿」が不足している:障害のある人を受け入れるグループホームや就労支援事業所は増えてはいるものの、「触法歴のある人」の受け入れに対する抵抗感は、施設側にも地域にも根強く残っています。

4. 私たちが考えなくてはいけないこと——「罰と支援の間」で

「支援を受ける権利」は誰にでもある

「犯罪を犯した人に、なぜ税金で支援をするのか」。この問いは、触法障害者支援を語るとき、必ずと言っていいほど出てきます。

もちろん、被害者の存在を忘れてはいけません。犯罪によって傷つけられた人の痛みは、どんな理由があっても正当化されるものではありません。

しかし同時に、こう問い返すこともできるのではないでしょうか。もし、その人が適切な福祉につながっていたら、犯罪は起きなかったのではないか。

法務省の調査では、知的障害のある累犯受刑者の多くが、幼少期から福祉サービスにつながっていなかったことが明らかになっています。学校で困難を抱えても特別支援教育を受けられず、就職しても職場に定着できず、住む場所を失い、最終的に軽微な犯罪で刑務所に入る。出所しても帰る場所がなく、また同じことを繰り返す——。

この「負の循環」を断ち切ることこそが、地域生活定着支援センターの使命であり、触法障害者支援の本質なんです。

「入口支援」への広がり

近年注目されているのが、「入口支援」という考え方です。これは、刑務所に入る前の段階——逮捕・起訴の時点で、障害の有無を早期に把握し、福祉的支援につなげる取り組みです。

2021年には検察庁と福祉機関の連携を促進する通知が出され、一部の地域では弁護士会と社会福祉士会が協力して、被疑者段階での福祉アセスメントを行う「入口支援モデル」が試行されています。

この動きは、「刑務所に入れてから支援を考える」のではなく、「そもそも刑務所に入れなくて済む道を探る」という、発想の転換を意味しています。

私たちへの問いかけ

最後に、読者のみなさんに問いかけたいことがあります。

あなたの暮らす地域に、刑務所を出た障害のある人が引っ越してくるとしたら、どう感じますか?

不安を感じるのは当然です。でも、その不安の正体は何でしょうか。「障害」への偏見なのか、「犯罪歴」への恐れなのか、それとも「よく知らないこと」への漠然とした不安なのか。

地域生活定着支援センターの職員は、こう語ります。「支援を受けて安定した暮らしができれば、再び罪を犯すリスクは大きく下がります。地域の安全を守ることと、障害のある人を支えることは、対立するものではないんです」。

「罰」と「支援」は二者択一ではありません。その間にある道を、制度として、地域として、そして一人ひとりの意識として、どうつくっていくか。それが、いま私たちに問われていることなのだと思います。

もう少し知りたい方へ

厚生労働省「地域生活定着促進事業」(制度の概要、各都道府県のセンター一覧が掲載されています) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/teichaku/

法務省「再犯防止推進計画」(国の再犯防止施策の全体像がまとまっています) https://www.moj.go.jp/hisho/seisakuhyouka/hisho04_00044.html

参照元(出典)

  1. ハートネット | NHK(heart-net.nhk.or.jp)

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