
「会社を辞めることになったけれど、次の仕事がすぐに見つかるだろうか」。障害のある人にとって、この不安は一層切実です。就職活動に時間がかかりやすいうえ、体調管理や通院との両立も考えなくてはなりません。そんなとき、生活をつなぐセーフティネットとして機能するのが 雇用保険 です。
とりわけ知っておきたいのが、障害のある人などが対象となる 就職困難者の所定給付日数の仕組み。一般の離職者よりも長い日数、失業給付(基本手当)を受け取れる制度です。この記事では、この仕組みを「就職困難者特例」と呼び、雇用保険が障害のある人の「働く」をどう支えているのかを整理します。
1. この制度って何?──就職困難者特例の基本
雇用保険の基本手当(いわゆる失業手当)は、離職後にハローワークで求職の申し込みをし、働く意思と能力があるにもかかわらず就職できない場合に支給されるものです。一般の離職者(特定受給資格者などを除く)の場合、被保険者であった期間に応じて 90〜150日 が所定給付日数になります。
これに対し、 就職困難者 に該当すると、給付日数が手厚く設定されています。
| 被保険者であった期間 | 45歳未満 | 45歳以上65歳未満 |
|---|---|---|
| 1年未満 | 150日 | 150日 |
| 1年以上 | 300日 | 360日 |
※年齢は離職日時点。65歳以上で離職する場合は原則として高年齢求職者給付金の対象となり、この表は適用されません。基本手当の受給資格を満たすことが前提です。表の「被保険者であった期間」は、所定給付日数を決めるための期間で、受給資格を判定する「被保険者期間」とは区別されます。
基本手当の受給資格は、原則として離職前2年間に被保険者期間が通算12か月以上必要です。倒産・解雇や、やむを得ない理由による離職など、特定受給資格者・特定理由離職者に該当する場合は、離職前1年間に通算6か月以上でも対象になります。就職困難者に該当することだけで、この加入期間の条件が短縮されるわけではありません。
一般の離職者の90〜150日と比べ、条件によっては 2倍以上 の日数です。再就職までに時間がかかりやすい人に、より長い日数の経済的な支えを用意する——これが就職困難者特例の考え方です。ただし、倒産・解雇などによる離職者には別の給付日数の区分があり、すべての離職者との比較で2倍以上になるわけではありません。
誰が「就職困難者」に当たるの?
障害のある人について、就職困難者として認められる主な対象は次のとおりです。
- 障害者雇用促進法に規定する身体障害者・知的障害者・精神障害者に該当する人。身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳などで確認されます。
- 手帳がなくても、所定の基準に該当することが確認できる人。精神障害者については、統合失調症、そううつ病(双極性障害、そう病・うつ病を含む)またはてんかんにかかり、症状が安定して就労が可能な状態にある人などが対象になります。
手続きとしては、離職後にハローワークで求職の申し込みと基本手当の受給手続きをする際に、手帳を提示して就職困難者に該当するか確認を受けます。手帳を持っていない場合は、必要な診断書や主治医の意見書などを窓口で確認してください。「就職に不安がある」「診断書がある」ということだけで、すべての人が対象になるわけではありません。
判定の基準となるのは、原則として受給資格決定時の状態です。その時点で該当していたことが後から確認された場合に、給付日数が変更されることもあります。最初の手続きで伝えられなかった場合も、早めに相談してください。
2. なぜこの制度は生まれたのか
雇用保険制度の前身である失業保険法は1947年に制定されました。その後、1974年に雇用保険法が制定され、1975年4月に施行されています。「失業」という事態から労働者を守るだけでなく、再就職の促進や失業の予防、能力開発も制度の目的とされました。
障害のある人などは、職種や勤務条件、必要な配慮との調整によって、求職活動に時間がかかることがあります。就職困難者について給付日数を手厚くする規定は、1974年に制定された雇用保険法にも設けられていました。現在の制度でも、年齢や被保険者であった期間に応じて、一般の離職者とは異なる日数が設定されています。
また、障害者雇用制度では、1988年に知的障害者が実雇用率の算定対象となり、1998年に雇用義務の対象に加わりました。精神障害者は2006年に実雇用率の算定対象となり、2018年に雇用義務の対象に加わっています。ただし、障害者雇用率制度と雇用保険の就職困難者の取り扱いは別の仕組みであり、同じ時期に対象が拡大したと説明することはできません。
3. 運用の実際──知っておきたいポイント
給付額はどれくらい?
基本手当の日額は、原則として離職直前6か月間の賃金(賞与などを除く)の合計を180で割った「賃金日額」をもとに計算されます。おおまかな目安として、賃金日額の 50〜80% 程度が支給されます(60〜64歳は45〜80%。賃金が低い人ほど給付率は高くなります)。上限額は年齢区分ごとに定められており、2026年8月1日からは、30〜44歳で日額8,270円、45〜59歳で9,110円が上限です。就職困難者だから日額自体が高くなるわけではありません。
300日分の給付を受ける場合、仮に日額6,000円とすると、総額は 180万円。生活費として十分かどうかは人によりますが、次の仕事を探す間の「時間を買う」お金として大きな意味を持ちます。ただし、300日分が必ず支給されるわけではなく、受給期間内に失業の認定を受けた日について支給されます。
所定給付日数と、受け取れる期限である「受給期間」は別です。受給期間は原則として離職日の翌日から1年間ですが、所定給付日数360日の人は1年と60日です。手続きが遅れると、所定給付日数を残して期限を迎えることがあります。
また、受給手続き後には7日間の待期があり、正当な理由のない自己都合退職では給付制限もあります。2025年4月1日以降の離職は原則1か月ですが、短期間に自己都合退職を繰り返した場合などは異なります。就職困難者に該当するだけで、待期や給付制限がなくなるわけではありません。
現場で起きている課題
制度を利用する際には、次のような点に気をつけたいところです。
- 制度の対象か確認する必要がある:障害者手帳を持っている場合は、基本手当の受給手続きの際に提示してください。一般求人への応募を希望している場合も、就職困難者に該当するかを窓口で確認することが大切です。
- 状態を確認する書類が必要になることがある:手帳の有無や障害の状況によって、診断書・主治医の意見書などで確認される場合があります。必要書類は事前にハローワークへ問い合わせてください。
- 給付日数が長くても、就職が保証されるわけではない:300日、360日という日数だけで、障害特性に合った仕事が見つかるとは限りません。給付終了を待たずに、ハローワークの専門窓口や地域の支援機関と相談し、再就職や必要な支援を検討することが大切です。
雇用保険に関連するその他の支援
就職困難者特例以外にも、障害のある人の「働く」を支える関連の仕組みがあります。
- 求職者支援制度(職業訓練受講給付金):雇用保険を受給できない人や受給が終了した人などが、ハローワークの支援を受けながら職業訓練を受ける制度です。月額10万円の職業訓練受講手当には、本人収入が月8万円以下、世帯収入が月30万円以下、世帯の金融資産が300万円以下であることなどに加え、出席などの要件があります。訓練を受ければ自動的に給付されるわけではありません。
- トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース):事業主側への助成金です。ハローワーク等の紹介により、障害のある人を原則3か月間(精神障害者は原則6〜12か月間)試行雇用する制度で、助成は原則として月額最大4万円・最長3か月。精神障害者の場合は月額最大8万円を3か月、4万円を3か月の最長6か月です。試行雇用の期間と、助成金の支給対象期間は異なります。「いきなり正式採用は不安」という企業にとってハードルを下げる役割があります。
- 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース):ハローワーク等の紹介で障害のある人を継続雇用する事業主に対し、企業規模や対象者、労働時間などの区分に応じて助成されます。最大240万円は、中小企業が重度障害者等を短時間労働者以外として雇う場合の3年間の総額です。すべての障害者雇用に一律240万円が支給されるわけではありません。
これらには雇用保険二事業による助成などもあり、関連する雇用施策として、求職者側と事業主側の双方を支えています。
4. 私たちが考えなくてはいけないこと
「知らなかった」をなくすために
就職困難者特例は、対象者にとって大きな経済的支援になり得ます。障害者手帳を取得したばかりの人、初めて失業を経験する人にとって、雇用保険の手続きは複雑に感じられます。企業の退職手続きの中で「あなたは就職困難者特例の対象になる可能性があります」と一言伝えるだけでも、状況は変わるはずです。
「給付が終わったあと」の接続
300日、360日という給付日数は一般の離職者より長いとはいえ、それでも期限があります。給付期間中に就職できなかった場合、障害福祉サービスや生活保護など、別の制度による支援が必要になることもあります。それぞれに利用要件があるため、雇用保険の終了後に自動的に利用できるわけではありません。雇用保険と障害福祉サービスの間に「つなぎ目の隙間」が生じないよう、ハローワークと自治体の障害福祉窓口が連携する仕組みがもっと必要ではないでしょうか。
なお、病気などですぐに働けない場合は、基本手当の受給要件を満たしません。30日以上継続して働けない場合は、受給期間の延長を申請できることがあります。就労継続支援B型などの利用を検討するときも、就労できる状態か、求職活動をどう進めるかによって取り扱いが変わるため、給付との関係をハローワークへ事前に確認してください。
短時間就労と雇用保険の壁
2028年10月1日から、雇用保険の加入要件のうち週所定労働時間が「20時間以上」から「10時間以上」に引き下げられます(改正雇用保険法)。障害のある人だけでなく、短時間で働く労働者を広く対象とする改正です。
2026年10月31日現在は、原則として週所定労働時間20時間以上、31日以上の雇用見込みがあることなどが加入要件です。週20時間未満では原則として加入できず、離職時の保障につながりにくいという問題があります。なお、65歳以上で複数の事業所に勤務する人には、一定の条件のもとで労働時間を合算し、本人の申し出で加入する別の特例があります。
短時間しか働けない障害のある人にとって、2028年の適用拡大は大きな一歩です。ただし、加入対象となる人には保険料負担が新たに発生することや、事業主側の事務負担が増えることへの対応も課題として残っています。
雇用保険は「働いている人」のための制度と思われがちですが、実は「次の一歩を踏み出すまでの時間を支える」制度でもあります。障害のある人にとっての「次の一歩」は、人それぞれ違います。一般企業への再就職かもしれないし、就労継続支援事業所での働き方かもしれない。大切なのは、その人が自分で選べる状態をつくること。雇用保険の就職困難者特例は、働く意思と能力があり、仕事を探している人にとって、そのための時間を支える仕組みなのだと思います。
もう少し知りたい方へ
- 厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」:基本手当の受給要件や手続き、就職困難者の取り扱いを確認できます。厚生労働省のQ&A
- ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」:就職困難者と、それ以外の離職者の給付日数を確認できます。給付日数の一覧
参照元(出典)
確認日:2026年10月31日。基本手当日額の上限は2026年8月1日適用額。個別の受給資格・対象者判定・離職理由は、住居所を管轄するハローワークで確認してください。
- ハローワークインターネットサービス「基本手当の所定給付日数」
- ハローワークインターネットサービス「基本手当について」
- 厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」
- 厚生労働省「雇用保険に関する業務取扱要領」(50304:就職困難者の確認、2026年4月版)
- 厚生労働省「雇用保険の基本手当日額の変更」(2026年8月1日適用)
- 衆議院「雇用保険法」(1974年制定時)
- 厚生労働省「平成22年度政策評価書」(失業保険法・雇用保険法の沿革)
- 厚生労働省「法定雇用率の算定に係る考え方について」(対象拡大の経緯)
- 厚生労働省「求職者支援制度のご案内」
- 厚生労働省「障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース」
- 愛知労働局「トライアル雇用助成金(障害者トライアルコース)」
- 厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」
- 厚生労働省「雇用保険の適用拡大」(2028年10月1日施行)
- 厚生労働省「雇用保険マルチジョブホルダー制度」
- ハローワークインターネットサービス「よくあるご質問(雇用保険について)」
執筆者プロフィール

主に福祉関連を中心に活動するライター
制度の枠組みから心の機微までを丁寧に言語化する傍ら、暮らしを彩るモノ・コトへの感性も鋭い。専門性の高い記事から、軽やかなエッセイ、実用的なレビューまで、多角的な視点で「日常の価値」を編み直す。