
グループホームの支援体制、日中活動の報酬単価―第8期計画と報酬改定の議論が進んでいる
たとえば、重度の知的障害がある30代の男性が暮らすグループホーム。夜間の支援体制が充実すれば、体調の急変に対応するうえでの支えになる。一方、人件費や物価が上がるなかで必要な収入を確保できなければ、事業所の人材確保や支援の継続が難しくなるおそれがある。こうした暮らしの細部に関わるのが、地域のサービス提供体制を方向づける「障害福祉サービス等の基本指針」と、事業所への報酬や人員配置基準だ。ただし、基本指針そのものが職員の配置人数や報酬単価を直接決めるわけではない。
2027年度から2029年度までの第8期障害福祉計画・第4期障害児福祉計画の土台となる基本指針は、2026年3月31日に告示された。現在は、その後の法改正を踏まえた追加改正の手続きが進められている。市町村と都道府県は、この指針に即してそれぞれの計画を策定し、サービスの種類ごとの必要量や提供体制の確保に向けた目標を定める。つまり、ここで示される方針は、障害福祉サービス等を利用する人たちの日常につながっている。
本記事では、基本指針がどのような仕組みで暮らしに届くのかを整理したうえで、いま並行して進んでいる報酬改定や権利擁護の議論との関係を読み解いていく。
参考:厚生労働省「第8期障害福祉計画について」
基本指針とは何か――「数値目標」が暮らしを動かす仕組み
基本指針という言葉は抽象的に聞こえるが、中身はかなり具体的だ。たとえば現行の第7期計画(2024〜2026年度)では、2026年度末に向けて、以下のような成果目標や活動指標が設定されている。
施設入所者の地域生活への移行
2022年度末時点の施設入所者数の6%以上が地域生活へ移行することを目指す。
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築
退院後の地域生活日数や早期退院率などの成果目標に加え、保健・医療・福祉関係者による協議の場の開催回数などを活動指標としている。
福祉施設から一般就労への移行
一般就労への移行者数を2021年度実績の1.28倍以上とすることを目指す。
これらの目標や指標は、各自治体が「うちの町では何人分のグループホームが必要か」「就労支援の体制をどう整えるか」を考える際の基準になる。ただし、国の数字をそのまま当てはめて整備数や予算が自動的に決まるわけではない。自治体は、地域の実情や利用者のニーズを踏まえ、サービスの必要量を見込んで計画をつくる。数値目標を実際の支援体制につなげられるかが、暮らしの選択肢を左右する。
第8期に向けた基本指針では、成果目標の更新もすでに示されている。地域移行者数は2025年度末の施設入所者数の6%以上、一般就労への移行者数は2024年度実績の1.31倍以上が目標だ。さらに、就労選択支援の提供体制や、障害福祉人材の確保・定着、生産性向上に関する目標も新たに位置づけられた。強度行動障害のある人への支援や医療的ケア児等への支援を含め、示された目標を地域でどう具体化するかが問われている。
参考:厚生労働省「第7期障害福祉計画に係る基本指針 改正後概要」参考:厚生労働省「第8期障害福祉計画に係る基本指針 改正後概要」
報酬改定との連動―「いくら払うか」が「誰を支えられるか」に関わる
第8期計画に向けた準備と並行して、令和9年度(2027年度)の障害福祉サービス等報酬改定に向けた議論も進んでいる。2026年8月27日には、障害福祉報酬改定検討チームの第62回会合が開催され、改定に向けた主な論点案が示された。
報酬改定とは、事業所が提供するサービスに対して支払われる基本報酬や加算などの見直しのこと。たとえば、就労継続支援B型には、利用者の平均工賃月額に応じて基本報酬を評価する体系があり、工賃額による区分は8つに分かれている。ただし、B型には平均工賃月額によらず、就労や生産活動等への参加を一律に評価する報酬体系もある。
令和6年度改定では、障害特性等により利用日数が少ない人を受け入れている事業所にも配慮し、平均工賃月額の算定方法が見直された。なお、その後の令和8年度の見直しもあるため、現在の報酬を確認する際は、令和6年度改定だけで判断せず、最新の告示・通知を確認する必要がある。
工賃の向上を評価することと、障害特性や支援の必要性に応じた受け入れを支えることを、どう両立するか。事業所が必要な収入や人材を確保できなければ、支援の継続が難しくなるおそれがある。第62回会合の論点案では、持続可能なサービス提供体制の確保、希望する地域等での生活の支援、多様なニーズへの対応、サービスの質の確保・向上などが掲げられている。
基本指針が「こういう社会を目指す」と方向を示し、報酬改定が「そのための支援をどう評価するか」を具体化する。この2つは車の両輪といえる。指針で「地域移行を進める」と掲げても、グループホームなどの支援体制や経営基盤が十分でなければ、受け皿の確保は進みにくい。一方、報酬上の対応だけでなく、自治体が地域のニーズを把握し、計画的に提供体制を整えることも必要だ。
参考:厚生労働省「第62回『障害福祉報酬改定検討チーム』資料」(2026年8月27日)参考:厚生労働省「第51回『障害福祉報酬改定検討チーム』議事録」(2025年12月16日)参考:厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」
権利擁護の議論も進行中―意思決定支援の「中身」が問われている
基本指針や報酬改定とは別の会議体で、成年後見制度の利用促進や地域の権利擁護支援に関する議論も進んでいる。2026年8月28日に開催された「地域における権利擁護の支援体制に係るワーキング・グループ」の第2回会合では、総合的な権利擁護支援策の充実と、本人の特性に応じた意思決定支援とその浸透が議題になった。
これは基本指針とも無関係ではない。現行の指針でも「意思決定支援の促進」は位置づけられている。ただし、独立した成果目標のひとつとして掲げられているわけではなく、研修などの取組と併せて推進する事項だ。第8期に向けた指針でも、ガイドラインを踏まえた意思決定支援の一層の推進が示されている。
たとえば、サービス等利用計画を作成する際に、本人の希望をどのように確かめ、支援に反映したのか。研修の実施だけでなく、実際の支援の中身を確かめる視点が大切になる。
知的障害のある人が「施設を出て暮らしたい」と言ったとき、その希望を支える仕組みがあるかどうか。本人が何を望んでいるかを丁寧に聴き、必要に応じて体験の機会をつくるには、支援の方法に加え、時間や人材、地域の受け皿も必要になる。意思決定支援を暮らしにつなげるうえでも、人員体制や報酬の議論は関わってくる。
参考:厚生労働省「成年後見制度利用促進専門家会議 第2回地域における権利擁護の支援体制に係るワーキング・グループ 資料」(2026年8月28日)参考:厚生労働省「第7期障害福祉計画に係る基本指針 改正後概要」
指針改正の全体スケジュールと、いま私たちにできること

第8期計画に向けた基本指針と、その後の追加改正の流れは以下のとおりだ。
①2026年3月31日:第8期計画に向けた基本指針を告示
2027年度から2029年度までの第8期障害福祉計画・第4期障害児福祉計画に向けた基本方針と成果目標が示された。
②2026年8月26日〜9月24日:追加改正案への意見募集
その後に成立した法律を踏まえ、人材確保・生産性向上・経営基盤の確立に関する取組や、医療的ケア児等への支援に関する事項を追加する改正案について、意見募集が行われた。
③2026年10月:追加改正の告示予定
公表資料では10月下旬の告示が予定されている。ただし、2026年10月26日時点で今回確認した公表資料からは、追加改正の告示が完了したかどうかは確認できない。
④2026年度中の準備・策定を経て、2027年4月から第8期計画の期間へ
市町村と都道府県は、2027年度から始まる計画に向けて必要なサービス量や提供体制を検討する。第8期の計画期間は原則として2027年4月から2030年3月までで、新基本指針と今回の追加改正案の適用日は2027年4月1日とされている。
今回の国の意見募集には、すでに提出できない。これから地域の計画に意見を届けるには、お住まいの自治体の障害福祉計画案や、意見募集の案内を確認してください。自治体の意見募集では、対象者や提出方法、期限をそれぞれの募集要領で確認する必要がある。
意見を出すときに意識したいのは、「自分の暮らしの中で何が困っているか」「どう変わったら助かるか」を具体的に書くことだ。「サービスを充実させてほしい」という一般論に加えて、「週3日の生活介護を週5日に増やせたら、家族が仕事を続けやすくなる」といった具体的な事情を伝えることが、地域のニーズを知ってもらう手がかりになる。
参考:e-Govパブリック・コメント「障害福祉サービス等及び障害児通所支援等の円滑な実施を確保するための基本的な指針の一部を改正する件(案)に関する御意見の募集について」(2026年8月26日公示・9月24日締切)参考:厚生労働省・こども家庭庁「基本指針の一部を改正する件(案)について(概要)」
3年後の暮らしを想像する
基本指針の改正は、ニュースとしては地味だ。派手な法改正でもなければ、予算の増減が即座に報じられるわけでもない。しかし、この指針が示す数値目標や方針を地域でどう具体化するかが、3年後に「自分の町に希望に合うグループホームがあるかどうか」「通える就労支援事業所があるかどうか」に関わってくる。
サービスを利用する人、その家族、そして現場で働く支援者。それぞれにとって、基本指針は「自分には関係ない行政文書」ではなく、暮らしの地図につながるものだ。報酬改定の議論がどう決着するか、意思決定支援を実際の支援にどう反映するか。これからの議論と各自治体の計画づくりを、fukushi.tvでは引き続き追いかけていく。
3年後、「あのとき声を届けておいてよかった」と思える人が一人でも増えるように。まずは、いま何が議論され、自分の地域でどのような計画がつくられているのかを確認するところから始めたい。
執筆者プロフィール

介護や高齢者問題に関する執筆を多数担当。介護に携わる家族や支援者の視点を大切にしながら、現場で役立つ情報をわかりやすく発信している。