「障害者支援施設の在り方」検討会が始まった——当事者はその椅子に座っているか

「障害者支援施設の在り方」検討会が始まった——当事者はその椅子に座っているか

ある会議室に、20脚の椅子が並んでいる。そのうち、障害のある当事者が座っている椅子は何脚だろうか。——「障害者支援施設の在り方に係る検討会」の委員名簿を開いたとき、最初に浮かんだのはそんな問いだった。

厚生労働省が設置したこの検討会は、全国にある障害者支援施設の今後のあり方を議論する場だ。令和8年6月30日には第5回が開催予定で、自治体における待機者の把握方法や、施設から地域への移行、地域生活を支える居住支援のあり方が議題に上がる。制度の設計図を引き直そうとしている、大切な局面にある。

でも、その設計図を引く手に、当事者の手はどれだけ含まれているのだろう。

3万人が「待っている」という現実

障害者支援施設への入所を待つ人は、全国で約3万人にのぼるとされている。3万人。数字だけ聞くと抽象的だけれど、これは3万通りの「今日をどう過ごすか」がある、ということだ。

高齢の親がひとりで成人の子を介護しているケース。グループホームの空きがなく、何年も待機リストに名前を載せたまま暮らしているケース。そのあいだにも親は歳をとり、本人の状態も変わっていく。「待っている」時間は、止まっているわけではない。

一方で、すでに施設に入所している人のなかには、「本当は地域で暮らしたい」と思っている人もいる。厚生労働省の調査によれば、入所施設から地域生活への移行実績は、第6期障害福祉計画(令和3〜5年度)の目標値である6%に対して、達成が難しい自治体が少なくなかった。施設に入りたい人が入れず、出たい人が出られない。この二重の「動けなさ」が、いまの障害者支援施設をめぐる最大の課題だと言っていい。

入所施設の運営費は、障害支援区分や施設の規模によって異なるが、利用者ひとりあたり月額おおむね20万〜35万円程度の給付費が公費から支出されている。全国の入所施設利用者は約12万人。年間の総額は数千億円規模にのぼる。これだけの公費が投じられている制度の「あり方」を議論するのだから、その恩恵を受ける——あるいは受けられずにいる——当事者が議論の中心にいなければ、おかしい。

「私たち抜きに私たちのことを決めないで」

「Nothing About Us Without Us(私たち抜きに私たちのことを決めないで)」。この言葉は、障害者権利条約の策定過程で世界中の当事者団体が掲げたスローガンだ。欧州では、欧州障害者フォーラム(EDF)がこの理念のもと、EU加盟国の障害者約1億人を代表して政策提言を行っている。EDFの特徴は、意思決定機関の構成員の過半数を障害当事者が占めることをルールとして定めている点にある。「声を聞く」のではなく、「決める側にいる」。この違いは大きい。

たとえばアイルランドでは、障害者サービスの質を監査する独立機関「HIQA」の評価チームに当事者が参加し、施設を訪問して利用者の声を直接聞き取る仕組みがある。スウェーデンでは、パーソナルアシスタンス制度によって、施設ではなく地域で暮らすための支援を当事者自身が設計・管理できる。制度の「利用者」が、同時に制度の「設計者」でもある——その発想が、欧州では少しずつ当たり前になりつつある。

では、この考え方を日本に持ってくるとしたら、何が必要だろうか。

まず直面するのは、「参画の形式」と「参画の実質」のギャップだ。日本でも、審議会や検討会に当事者委員を入れることは増えてきた。DPI日本会議をはじめとする当事者団体が粘り強く働きかけてきた成果だ。しかし、委員に名前があることと、実際に発言が政策に反映されることは、イコールではない。会議資料が事前に届かない、情報保障(手話通訳や要約筆記、点字資料など)が十分でない、発言時間が限られている——こうした「見えにくいバリア」が、当事者の実質的な参画を阻んでいる場面は少なくない。

さらに言えば、検討会に参加できる当事者は、ある程度の発信力やネットワークを持つ人に限られがちだ。重度の知的障害のある人、言語でのコミュニケーションが難しい人、長期入所で地域とのつながりが薄くなっている人——本来、施設のあり方にもっとも影響を受ける人たちの声こそ、届きにくい構造がある。

「声を届ける回路」を増やすために

だからといって、「当事者参画は難しい」で終わらせてはいけない。むしろ、「どうすれば届くか」を考えるのが、この検討会の存在意義ではないだろうか。

いくつかの自治体では、すでに工夫が始まっている。たとえば、施設を利用している本人に対して、絵カードや写真を使った聞き取り調査を行い、「ここで暮らし続けたいか」「どんな暮らしがしたいか」を丁寧に確認する取り組みがある。また、ピアサポーター(同じ障害のある仲間)が施設を訪問し、入所者と対話する「ピアによるモニタリング」を試みている地域もある。

こうした取り組みを制度として位置づけることが、次のステップになるだろう。具体的には、以下のような方向性が考えられる。

第一に、検討会や審議会における当事者参画の「質」を担保する仕組みづくり。委員の人数だけでなく、情報保障の水準、事前の資料提供の期限、意見表明の方法の多様化(書面提出、代理発言、動画メッセージなど)を、ガイドラインとして明文化すること。障害者政策委員会では一定の情報保障が整いつつあるが、個別の検討会レベルではまだばらつきが大きい。

第二に、地域移行を「選択肢」として成り立たせるための基盤整備。地域で暮らすには、住まい、日中活動の場、緊急時の対応、そして何より「孤立しない関係性」が必要だ。グループホームの整備だけでなく、サテライト型住居や、地域の見守りネットワーク、ショートステイの柔軟な運用など、「施設か地域か」の二択ではない、グラデーションのある選択肢を増やしていくことが求められる。

第三に、施設の中にいる人の声を「外」につなぐ回路の制度化。第三者評価制度はあるが、当事者の視点からの評価が十分に組み込まれているとは言いがたい。前述のピアモニタリングや、オンブズパーソン制度の導入など、施設の「内側」と「外側」をつなぐ仕組みを、全国的に広げていく必要がある。

椅子を増やすこと、椅子の形を変えること

検討会のテーブルに当事者の椅子を増やすこと。それは大切だ。でも、もしかしたらもっと大切なのは、「椅子の形」を変えることかもしれない。

車椅子では近づけないテーブル、聞こえない言葉で進む議論、読めない資料で行われる意思決定——そうした場に「どうぞ」と招かれても、それは本当の参画とは言えない。テーブルの高さを変え、言葉を翻訳し、時間の流れ方を変える。そこまでやって初めて、「一緒に決める」が始まる。

第5回検討会では、待機者の把握方法が議題のひとつになっている。「何人待っているか」を数えることは大事だ。でも同時に、「その人は何を待っているのか」を聞くことも、同じくらい大事なはずだ。施設への入所を待っているのか、地域で暮らすための支援を待っているのか、それとも「自分の話を聞いてくれる誰か」を待っているのか。

数字の向こう側にいる一人ひとりの顔を思い浮かべながら、この検討会の行方を見守りたい。そして、あの会議室の椅子に座っている人も、座れなかった人も、同じ未来の話をしているのだということを、忘れずにいたいと思う。

参照元(出典)

  1. 第5回 障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会(令和8年6月30日開催予定)(wam.go.jp)
  2. 障害者施策|政策統括官(共生・共助担当)- 内閣府(www8.cao.go.jp)
  3. Homepage – European Disability Forum(edf-feph.org)
  4. 私たちの活動 | DPI日本会議(dpi-japan.org)

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