福祉の現場には、困っている人を見ると放っておけない人が多いです。
自分が無理をしてでも、相手を優先してしまう。
「大丈夫です」と言いながら、限界まで頑張ってしまう。
ですが、その優しさの裏には、「子どものころから誰かを支えてきた経験」が隠れていることがあります。
近年、「ヤングケアラー」という言葉が知られるようになりました。
本記事では、ある支援者のヤングケアラー経験と、そんなヤングケアラーが頼れる支援機関について考えていきます。
支援者(ヤングケアラー)Aさんの場合
Aさんは、現在福祉の仕事に就いて5年目。
とても真面目で利用者思いということで定評のある支援者です。
Aさんの家庭環境はというと……
幼少期から、父親がアルコール依存症。
母親は父親の世話に嫌気がさして逃亡してしまいました。
Aさんは長女で、幼いきょうだいもいます。
そんな家庭で育ってきました。
一人では自分のこともままならない父親の世話をしながら生活していくのが当たり前だとAさんは思って生きてきました。
当時のAさんはそれが当たり前だと思っていたので、「誰かを頼る」という発想も、行政の助けを借りるという発想もありません。
Aさんが一人で父親や幼いきょうだいの世話、そして家事を引き受けて生きてきたのです。
Aさんにとって、「人の世話をする」というのが息をするくらい自然なことで、それが自分の存在意義であると信じて疑いませんでした。
当時のAさんは「ヤングケアラー」という言葉も知らず、自分自身こそが支援される対象だなんて思ってもいませんでした。
Aさんが支援者(ヤングケアラー)になった理由
Aさんの父親は、Aさんが18歳の時に亡くなりました。
父親や幼いきょうだいの世話をするのが当たり前だったAさんは、
「人の役に立つことが自分の使命」
だと強く思い、奨学金を借りて大学で勉強し、福祉の世界に飛び込みました。
Aさんは福祉の世界に入ってから本当に熱心な支援者になり、人が困っていると親身になって相談にのってくれます。
自分では「この仕事は天職なのではないか」と思って毎日仕事をしていました。
本当にきめ細やかで、熱心に利用者とかかわっていきました。
Aさんの抱え込みと突然のバーンアウト
福祉の現場で働くAさんは、周囲から「真面目で優しい人」と言われてきました。
利用者対応で困っている職員がいれば、Aさんは自分が代わりに動いてくれます。
シフト変更も断らず、休憩中も利用者のことを常に考えています。
日々休みなく働き続けて5年目、Aさんの心身に異変が起こりました。
ある日、Aさんは突然涙が止まらなくなり、朝起き上がるのも困難になりました。
自分では「今日も頑張って利用者の役に立たなければ」と思っているのに、なかなか体が動きません。
Aさんは泣き崩れ、電話で
「もう無理です」
と上司に話し、欠勤しました。
のちに上司がAさんの話を聞くと、頑張っても頑張っても報われない支援から、父親のことを思い出したと言います。
どんなに頑張って看護や介護をしても、良くなるどころか、アルコール依存症は悪化していく一方だった父親。
最期は看護や介護の甲斐もなく、肝硬変で亡くなった父親。
福祉の現場でどれだけ支援しても自分の手に負えない事例にいくつも直面し、それでもつらいと言えなかったAさん。
父親の看護や介護の場面と福祉現場の支援の場面が時々重なってしまい、つらくなってしまうことがあったと言います。
Aさんは、バーンアウト(燃え尽き症候群)の状態になってしまいました。
そんな上司はAさんに心療内科に行くことを勧めました。
支援者も支援につながることができるー利用できる制度・支援ー

支援者だからと言って「支援される側」にまわることをためらうことはありません。
特に、ヤングケアラーは自分自身が「支援する側」はたくさん経験してきても、自分が「支援される側」を経験してきたことがない人も多いです。
ですが、支援者も支援につながる権利があります。
「もっと頑張らなければ」
と無理をすることで、ヤングケアラーは限界まで一人で抱え込んでしまいがちです。
支援者が支援を受けることは、決して「弱さ」ではありません。
支援者が利用できる制度や支援をご紹介しますので、必要な時はぜひ利用しましょう。
①EAP(従業員支援プログラム)
企業や法人によっては、外部カウンセラーに相談できる制度もあります。
福祉法人でも導入しているところがありますので、導入されている場合はぜひ利用してみてください。
特に
- メンタル不調
- 職場ストレス
- バーンアウト(燃え尽き症候群)
- 人間関係の問題
などを相談することができます。
②産業医・職場相談窓口
福祉職の人たちは、自分たちが「相談したら迷惑なのではないか」と考えがちです。
しかし、以下の症状がある場合は早めに相談することが大切です。
- 不眠
- 抑うつ状態
- 涙が止まらない
- 出勤するのが困難
これらの状態がありながらも「休むほどではない」と思い込んでいるときほど危険です。
ぜひこのような状態のときは相談に行きましょう。
③自立相談支援機関
もしも上記の症状のほかに
- 離職
- 生活困窮
- 借金
- さらなるメンタル不調
が重なってしまった場合は、各自治体の相談窓口につながることができます。
あなたが支援員であっても、生活が崩れることもあります。
あなたがヤングケアラーなら、上記のような状態も十分ありうるでしょう。
「自分は支援者だから、人を頼ってはいけない」
と決して思わず、支援機関を頼りましょう。
④心療内科・カウンセリング
支援者は、「自分が相談する側になる」ということに抵抗をもちやすいです。
しかし、支援者だから自分が相談する側にまわってはいけないというわけではありません。
必要なときは自身のケアも大事です。
ヤングケアラーは、つい自分のケアを後回しにしてしまう傾向があります。
ですが、自分自身のケアをしっかりおこなうことで、より質の良いケアを利用者におこなうことができるのです。
⑤傷病手当金
心身の不調に陥ったとき、支援者も視野が狭くなりがちです。
まずは十分に休息することも大事です。
心身の不調で休職した場合、条件を満たせば傷病手当金が健康保険から支給されます。
支援者の中には「休んだら終わり」と思い込みやすい人もいます。
特に、ヤングケアラーは子どものときから休まずに親やきょうだいの世話をしてきたので、
「休むこと=悪」
と思い込む傾向があります。
ですが、実際は「休む=人生終了」ではありません。
まとめ
支援者は、「助けること」に慣れています。
ですが、「助ける側」でいる期間が長すぎると、自分の苦しさに気づけなくなることがあります。
ヤングケアラー経験のある人ほど、
「自分が頑張ればいい」
「迷惑をかけてはいけない」
という思いを抱え込みやすいのかもしれません。
けれど、支援者も一人の人間です。
疲れることも、限界がくることもあります。
誰かを頼る必要があるときもあります。
自分を守ることは、決して我がままではありません。
支援者もより質の良い支援を長く続けるためには、必要なときに助けを求めたり、人に頼ることをためらわないことも大事です。
特にヤングケアラーは、「どんなとき自分に助けが必要か」ということに気づきにくい傾向があります。
本記事を参考にし、自分のことを大切にしていただけたらと切に思います。
執筆者プロフィール

臨床心理士・公認心理師・精神保健福祉士。医療・保健、教育、福祉の現場を経て、現在は就労継続支援B型事業所のサービス管理責任者として勤務。同時に「あいオンラインカウンセリングルーム」を立ち上げる(https://www.eye1234.com/)。
商業出版「手を抜いたって、休んだって、大丈夫。」(大和出版)のほか、kindle16冊(いずれもeye(あい)名義)など著書多数。また様々なメディアにてWebライティングを多数行う。発達障害のある夫と、子ども2人の4人家庭。