令和9年度介護報酬改定で夜勤職員の手取りはどう変わるか

令和9年度介護報酬改定で夜勤職員の手取りはどう変わるか

夜勤明けの朝、給与明細を開く手が止まる

たとえば、介護施設で夜勤を終えた職員が、朝の光のなかで給与明細を確認する。手取り25万円。夜勤を月に5回こなしても、この金額から大きく動くことはない。「あと3万円あれば、子どもの習い事をひとつ増やせるのに」—そんな暮らしを想像すると、処遇改善の議論が身近に感じられます。これは説明のための仮の例であり、介護職員の平均的な手取り額や実際の取材事例を示すものではありません。

令和9年度の介護報酬改定に向けた議論が、社会保障審議会・介護給付費分科会で進んでいます。この改定がどう決まるかによって、介護職員の給与明細の数字が変わる可能性があります。同時に、介護サービスを利用する方の自己負担額にも影響が及びます。制度の話ではありますが、その先にあるのは、具体的な誰かの暮らしの話です。ただし、夜勤職員の手取りがいくら増えるかは、現時点では確認できません。(2026年10月現在)

介護報酬とは「暮らしの値段」である

そもそも介護報酬とは、介護サービスを提供した事業所に支払われる公定価格のことです。利用者が支払う自己負担(原則1割、一定以上の所得がある方は2割または3割)と、残りを介護保険から賄う仕組みになっています。この報酬単価が上がれば、同じサービス内容・利用量などの条件では事業所の収入が増え、職員の給与に回せる原資も増えます。しかし同時に、利用者が窓口で支払う金額も増える場合があります。

介護報酬は原則3年に一度改定されます。令和6年度改定では全体で1.59%のプラス改定が行われ、そのうち0.98%分が介護職員の処遇改善に充てられました。さらに、令和9年度改定を待たずに令和8年度の期中改定が行われ、全体の改定率はプラス2.03%、うち介護分野の職員の処遇改善分はプラス1.95%で、処遇改善加算の拡充は令和8年6月から施行されています。これらは制度全体の改定率であり、一人ひとりの給与が同じ割合で上がるという意味ではありません。

厚生労働省の「令和6年度介護従事者処遇状況等調査」では、処遇改善加算を取得している施設・事業所の介護職員(月給・常勤の者)の平均給与額は、令和6年9月に33万8,200円で、前年同月から1万3,960円増えています。ただし、これは両時点に在籍していた職員を比較した数字で、基本給・手当と賞与等の一時金の月額換算分を含む額面です。手取り額ではなく、増加分すべてを報酬改定だけの効果とみなすこともできません。

令和9年度改定に向けては、介護給付費分科会で複数の論点が整理されつつあります。主な論点には以下の内容があります。

処遇改善のさらなる推進:介護分野の職員の賃金を他職種と遜色ない水準に近づける。
認知症対応力の強化:認知症の方が地域で暮らし続けられる支援の在り方を検討する。
医療・介護連携の深化:看取りや医療ニーズの高い方への対応を強化する。
科学的介護(LIFE)の推進:データの活用を通じたケアの質の向上を図る。

これらの施策には当然、財源が必要です。介護保険は利用者負担に加え、保険料と公費によって支えられています。「改定率を何%にするか」という数字の議論は、そのまま「誰がいくら負担するか」の議論でもあります。

夜勤職員の手取りはどこまで変わりうるか

現場でもっとも切実な課題のひとつは、夜勤に従事する職員の処遇です。先ほどの厚生労働省調査では、介護老人福祉施設の介護職員(月給・常勤の者)の平均給与額は、令和6年9月に36万1,860円でした。これも処遇改善加算を取得している事業所の比較対象職員について、賞与等を月額換算して含めた額面であり、夜勤職員だけの平均や毎月の手取りを示すものではありません。

夜勤手当の金額や支給方法は事業所によって異なります。仮に1回5,000円の夜勤手当を月5回分受け取る場合、手当は月2万5,000円ですが、これは計算例であって全国共通の支給額ではありません。

仮に令和9年度改定で処遇改善加算がさらに拡充され、個人の額面給与が月額1万〜2万円上がったとしても、手取りが同じ額だけ増えるとは限りません。税金や社会保険料、扶養の状況などによって変わるためです。また、この1万〜2万円は仮定であり、令和9年度改定による賃上げ額として決まっている数字ではありません。

ここには重要な前提があります。基本報酬などの増収分の使い方と、処遇改善加算の使い方は分けて考える必要があります。処遇改善加算を取得する事業所には、加算の算定額に相当する賃金改善を行う義務があります。賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担の増加分を含めることはできますが、光熱費や食材費の穴埋めに自由に回せるお金ではありません。

一方、要件の範囲内で職員への配分方法には柔軟性があり、基本給・手当・賞与のどこに反映するかによっても、毎月の給与明細の見え方は変わります。「報酬が上がった=全員の毎月の手取りが同額上がった」と単純には言い切れないのが現実です。

なお、令和8年度の期中改定では、介護従事者に幅広く月1万円、生産性向上や協働化に取り組む事業者の介護職員に月7,000円を上乗せし、定期昇給2,000円を含めて最大月1万9,000円の賃上げを実現するための措置が設けられました。これは令和8年度の措置であり、全員への同額支給や手取りの増加額を保証するものではありません。

他産業と遜色のない処遇を実現するには、報酬改定だけでなく、ICT導入による業務効率化や、業務分担の見直しなど、複合的な取り組みも必要になります。自分の給与への反映を確認する際は、勤務先に加算の取得区分、配分方針、基本給・手当・賞与への反映方法を確認してください。

利用者の自己負担はどうなるか

報酬改定の影響は、利用者側にも及びます。たとえば、特別養護老人ホームを利用する方の介護保険対象サービス費が月30万円で、その費用全体が仮に2%上がる場合、1割負担の方の負担は月3万円から3万600円となり、月600円、年間7,200円増える計算です。これは高額介護サービス費などによる軽減を適用する前の単純な試算で、食費・居住費・日用品費は含みません。

実際の負担額は、要介護度や施設の種類、部屋の種類、地域区分、加算、利用日数などによって異なります。また、制度全体の改定率が2%でも、その方が利用するサービスの費用が一律2%上がるわけではありません。令和9年度の改定率そのものも、現時点では確定していません。

この金額を「わずか」と見るか「大きい」と見るかは、その方の暮らしによって異なります。国民年金のみで生活している高齢者の場合、施設の居住費・食費・日用品費を差し引くと、手元に残るお金が限られることもあります。月々の負担増が、楽しみの買い物を我慢することにつながるかもしれません。

現在も、低所得者向けに食費・居住費を軽減する補足給付(特定入所者介護サービス費)や、介護サービスの自己負担に所得等に応じた上限を設ける高額介護サービス費があります。補足給付には所得・資産等の要件があり、高額介護サービス費には食費・居住費などは含まれません。利用できる軽減制度と申請手続きは、市区町村の介護保険担当窓口に確認してください。

報酬を上げつつ、負担が重くなりすぎる方の暮らしを支える。この両立が、改定を考えるうえで大切です。ただし、補足給付の拡充や高額介護サービス費の見直しが令和9年度にどうなるかは、現時点では確定内容を確認できません。

看護職員の確保が介護の質を左右する

介護報酬改定を考えるうえで、介護現場における看護職員の確保も重要です。特別養護老人ホームや介護老人保健施設では、医療ニーズの高い入所者への対応が求められます。たんの吸引、経管栄養、インスリン注射—こうしたケアを安全に行うには、看護職員の確保や医療機関との連携など、必要な体制を整えることが欠かせません。

看護職員が働き続けられる環境を考える際には、夜勤・オンコールの負担、介護職との役割分担、給与水準などが重要な検討点になります。看護体制を維持するには、人材の確保とともに、働き続けられる職場環境を整える視点が欠かせません。

令和9年度改定に向けた基本的な視点の案では、医療ニーズが高い方への対応や看取りへの対応を含め、医療と介護の連携を一層推進することが示されています。具体的な看護体制の評価や加算の要件がどう変わるかは、今後公表される改定内容を確認する必要があります。

看護職員の処遇については、すでに令和8年度の期中改定で、処遇改善加算の対象が介護従事者に拡大され、訪問看護などにも新たに加算が設けられています。介護施設の看護職員への配分も含め、現行制度の活用状況と、令和9年度に向けた議論を分けて確認する必要があります。

ただし、看護職員の確保を考えるには、医療側の処遇との関係も欠かせません。同じ看護師資格を持つ人が、病院で働くか介護施設で働くかによって勤務条件や給与に差があれば、職場を選ぶ際の判断材料になります。令和9年度改定でも、処遇と働きやすさをどう支えるかが問われています。

「制度の数字」の向こうにいる人

介護報酬改定の議論は、どうしても「改定率○%」「加算の単位数」といった数字の話になりがちです。しかし、その数字の一つひとつが、夜勤明けに保育園へ子どもを迎えに行く職員の暮らしを変え、年金でやりくりしながら施設で過ごす高齢者の日常を左右します。

介護給付費分科会では、令和8年9月30日に令和9年度改定に向けた「基本的な視点(案)」が示され、10月にはサービスごとの議論が進んでいます。注目すべきポイントを整理しておきます。

処遇改善の内容と給与への反映:他職種と遜色のない処遇に向けて、どのような措置が講じられるか。
利用者負担への影響:利用するサービスの費用と、補足給付・高額介護サービス費などによる軽減を合わせてどう変わるか。
看護・医療との連携体制の評価:医療ニーズの高い利用者を受け入れる体制がどう評価されるか。
小規模事業所や地域への配慮:加算の要件や事務負担、人口減少地域のサービス確保にどう対応するか。

制度が変わるとき、その恩恵がすべての人に届くまでには時間がかかります。それでも、議論の過程を知り、「自分の暮らしにどう関わるのか」を考えることには意味があります。報酬改定の議論は専門家だけのものではなく、介護を受ける人、介護で働く人、そしていつか介護に関わるすべての人の問題です。

分科会の資料は厚生労働省のウェブサイトで公開されています。難しい資料ではありますが、そこに並ぶ数字の向こうに、自分の親や、自分自身の将来の暮らしが透けて見えるはずです。

参考:
厚生労働省「社会保障審議会(介護給付費分科会)」(第268回:2026年9月30日、第271回:2026年10月19日)
厚生労働省「令和9年度介護報酬改定に向けた基本的な視点(案)」(2026年9月30日)厚生労働省「令和6年度介護報酬改定について」(2026年10月25日確認)厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」(2026年10月25日確認)厚生労働省「令和8年度予算に関する「大臣折衝事項」について(報告)」(2025年12月26日)厚生労働省「令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果」(給与の比較時点:2023年9月・2024年9月。2026年10月25日確認)厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(2026年3月13日)

執筆者プロフィール

TOPへ