障害者職業総合センター発表会が映す「働く」の現在地——雇用率の裏側で、職場に残れなかった人たちのこと

障害者職業総合センター発表会が映す「働く」の現在地——雇用率の裏側で、職場に残れなかった人たちのこと

「採用おめでとう」のあと、何が起きているのか

2026年6月、障害者職業総合センターが「第34回職業リハビリテーション研究・実践発表会」の開催情報を公表した。全国から研究者や支援者、企業の担当者が集まり、障害のある人の「働く」をめぐる実践事例を共有するこの場は、毎年、現場のリアルを映し出す鏡のような存在だ。

だが、今年の発表会を前にして、私がどうしても考えてしまうのは、雇用率という数字の「外側」にいる人たちのことだ。法定雇用率は上がった。企業の採用数も増えた。でも、その採用通知を受け取った人たちのうち、1年後も同じ職場にいる人は、どれだけいるのだろう。

雇用率だけでは見えない「職場定着」という構造的な課題。今回は、発表会のテーマを手がかりに、障害のある人が「働き続ける」ために何が足りないのかを、制度と現場の両面から考えたい。

雇用率2.5%時代——数字が語ること、語らないこと

2024年4月から民間企業の法定雇用率は2.5%に引き上げられた。さらに2026年7月には2.7%への引き上げが予定されている。厚生労働省の集計では、2024年6月1日時点の実雇用率は2.33%、雇用障害者数は約67万7,461.5人と、いずれも過去最高を更新した。数字だけを見れば、障害者雇用は着実に「前進」しているように見える。

しかし、この数字はあくまで「ある一時点で雇用されている人の数」にすぎない。採用された人がその後どうなったか——つまり「定着」の実態は、雇用率の統計には表れない。

障害者職業総合センターの調査研究によれば、障害のある人の職場定着率は障害種別によって大きく異なる。身体障害のある人は就職後1年時点で約60.8%が同じ職場に残っているのに対し、精神障害のある人は約49.3%、知的障害のある人は約68.0%という結果が示されている。精神障害のある人に限れば、就職後3か月の時点ですでに約30%が離職しているというデータもある。

67万人超という雇用者数の裏には、毎年相当数の人が職場を去っている現実がある。仮に精神障害のある人の約半数が1年以内に離職しているとすれば、それは何万人もの「採用おめでとう」が、1年も経たないうちに「お疲れさまでした」に変わっているということだ。一人ひとりにとって、それは統計ではなく、朝起きて出勤する日常が突然途切れるという経験にほかならない。

「入口」は広がった。でも「中」が整っていない

なぜ、採用は増えているのに定着が追いつかないのか。現場で繰り返し聞くのは、「雇用の入口と中身のギャップ」という言葉だ。

法定雇用率の引き上げや、未達成企業への納付金制度(従業員100人超の企業で1人不足あたり月額5万円)は、企業に採用のインセンティブを与えてきた。障害者雇用納付金制度の調整金(超過1人あたり月額2万9,000円)も、数の上での雇用を後押しする仕組みだ。こうした制度設計は「雇う」ことには効果を発揮するが、「雇い続ける」ための環境整備には直接つながらない。

特に課題が大きいのは中小企業だ。従業員40人以上の企業に雇用義務が課される2026年7月以降、新たに対象となる企業の多くは、障害者雇用の経験そのものが乏しい。専任の担当者を置く余裕がなく、合理的配慮の具体的な方法もわからない。結果として、「とにかく採用したが、何をどう配慮すればいいのかわからない」という状態が生まれる。

障害のある人の側から見れば、「配属されたが、仕事の指示が曖昧で何をすればいいかわからない」「困ったときに誰に相談すればいいか教えてもらえなかった」「周囲が気を遣いすぎて、逆に孤立した」——こうした声は、私が現場にいた頃から変わっていない。制度が「雇う」ことを後押しする一方で、「その人がそこで働き続けるために必要なこと」は、いまだに個々の職場の善意や努力に委ねられている部分が大きい。

キャリアコンサルタントという「つなぎ手」の可能性と限界

こうした「入口と中身のギャップ」を埋める存在として期待されているのが、キャリアコンサルタントだ。厚生労働省ではキャリアコンサルタント登録制度に関する検討会が開かれており、資格の質の向上や活動領域の拡大が議論されている。

キャリアコンサルタントは、本人の希望や適性を見立て、企業との間に立って職場環境の調整を提案できる専門職だ。障害のある人の就労支援においては、ジョブコーチ(職場適応援助者)と並んで、定着を支えるキーパーソンになりうる。

しかし、現状には大きな課題がある。2024年度末時点でキャリアコンサルタントの登録者数は約7万2,000人に達しているが、その多くは企業の人事部門やハローワーク、教育機関に所属しており、障害者の就労支援を専門的に担っている人は限られている。養成課程のカリキュラムにおいても、障害特性の理解や合理的配慮の実践に割かれる時間は十分とは言えない。

現場で必要とされているのは、たとえば「発達障害のある人が、オープンオフィスの感覚刺激に疲弊していることに気づける」「統合失調症の服薬による眠気が午前中のパフォーマンスに影響していることを、本人と上司の間で共有する橋渡しができる」——そうした具体的で繊細なスキルだ。これは座学だけでは身につかない。

今回の検討会で議論されている更新講習の内容見直しや、実践経験の要件化は、この課題に対する一つの回答になりうる。ただし、制度を変えるだけでなく、「障害のある人のキャリア支援は、専門性が必要な仕事である」という認識そのものを、業界全体で共有していく必要がある。

発表会が問いかけるもの——「実践」を「構造」に変えるために

障害者職業総合センターの発表会は、全国各地の「うまくいった事例」と「うまくいかなかった事例」が共有される貴重な場だ。ある企業で効果のあった配慮の工夫、ある地域で機能した支援ネットワーク、ある当事者が語る「自分にとっての働きやすさ」——こうした一つひとつの実践は、それ自体が価値ある知見である。

だが、実践事例の共有だけでは、構造は変わらない。個別の成功事例が「あの企業は意識が高いから」「あの支援者が優秀だから」で終わってしまえば、そこから漏れる人は漏れ続ける。

今、必要なのは、個別の実践を「仕組み」に翻訳する作業だ。たとえば、定着支援に成功している企業に共通する要素を抽出し、それを中小企業でも実行可能な形にパッケージ化すること。ジョブコーチの配置を、現在の「申請ベース」から「一定規模以上の新規雇用には原則配置」に変えること。キャリアコンサルタントの障害者支援領域での専門研修を、更新要件に組み込むこと。

これらはいずれも、予算と制度設計が伴わなければ実現しない。しかし、納付金制度による収入(2023年度で約370億円規模)の使途を「採用促進」から「定着支援」にシフトさせるだけでも、かなりのことができるはずだ。

「働き続けている朝」を想像する

私が障害者支援施設で働いていた頃、就職が決まった利用者を送り出す日は、いつも嬉しくて、いつも不安だった。「おめでとう」と言いながら、心のどこかで「大丈夫だろうか」と思っていた。そして実際に、数か月後に「辞めました」と連絡が来ることも少なくなかった。

あの頃の「大丈夫だろうか」は、個人の心配事だった。でも今、それは社会の構造の問題として語られるべきだと思う。雇用率が上がるたびに「前進した」と報じられるが、その数字の裏で職場を去った人たちの「その後」に、私たちはもっと目を向ける必要がある。

第34回の発表会で共有される実践事例の中に、きっと「この人は定着できた、なぜなら——」という具体的な物語があるだろう。その「なぜなら」の部分を、個人の幸運や努力に帰するのではなく、制度や仕組みとして社会に実装していくこと。それが、雇用率という数字を「一人ひとりの働き続けている日常」に変えていく道筋だと、私は思っている。

障害のある人が、明日も同じ職場で「おはようございます」と言える。その当たり前を、当たり前にするために、まだやるべきことは多い。

参照元(出典)

  1. 障害者職業総合センター NIVR(nivr.jeed.go.jp)
  2. 第225回労働政策審議会職業安定分科会を開催します(mhlw.go.jp)
  3. 第30回キャリアコンサルタント登録制度等に関する検討会 会議資料(mhlw.go.jp)
  4. 受入事業主が講ずべき措置に関する指針の一部を改正する件(案)及び送出事業主が講ずべき措置に関する指針の一部を改正する件(案)に関する御意見の募集について(public-comment.e-gov.go.jp)

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