就労アセスメントシートは「誰のため」か——障害者雇用分科会と現場ツールの距離を測る

就労アセスメントシートは「誰のため」か——障害者雇用分科会と現場ツールの距離を測る

「あなたの強みを教えてください」——その問いは、誰に届いているのか

就労を希望する障害のある人が支援機関を訪れたとき、最初に向き合うのが「アセスメント」という工程だ。就労アセスメントシートには、その人の障害特性、生活リズム、得意なこと・苦手なこと、働くうえでの配慮事項が記入される。制度上は、本人と支援者が一緒に「自分を知る」ための道具であるはずだ。

しかし、現場の支援員からはこんな声が聞こえてくる。「記入欄を埋めることが目的になっている」「本人がシートの中身を見たことがない」「書いた内容が、次の支援先に正しく伝わっているか分からない」。就労アセスメントシートは、本当に障害のある人を変えるツールになっているのだろうか。

2025年6月22日に開催予定の第139回労働政策審議会障害者雇用分科会、そして障害者職業総合センターが公開した就労支援のためのアセスメントシート活用ガイド。この二つの動きを重ね合わせると、政策が描く理想と、現場が抱える現実との間にある「距離」が浮かび上がってくる。

障害者雇用分科会が問い直す「雇用率制度の輪郭」

第139回障害者雇用分科会の主要な論点のひとつは、精神・発達障害者を含む障害者雇用率制度の在り方だ。現行制度では、障害者手帳を所持していることが雇用率カウントの前提となっている。しかし、発達障害や高次脳機能障害などで手帳を取得していない——あるいは取得をためらう——人は少なくない。

厚生労働省の「令和5年障害者雇用状況の集計結果」によれば、民間企業における障害者の実雇用率は2.33%で、法定雇用率2.3%をわずかに上回った。雇用されている障害者数は約64万2,000人で過去最高を更新している。一方で、精神障害者の雇用数は約13万人にとどまり、身体障害者(約36万人)の3分の1程度だ。精神障害者保健福祉手帳の交付件数が年々増加し、2022年度には約135万件に達していることを考えると、手帳を持っていても雇用に結びついていない層が相当数いることが分かる。

さらに、手帳を持たない発達障害者や難病のある人は、そもそもこの「64万人」の中に含まれていない。分科会が「手帳の有無にかかわらない雇用機会の拡大」を議題に掲げる背景には、制度の網の目からこぼれ落ちている人たちの存在がある。

ここで問題になるのが、手帳に代わる「障害特性の把握手段」としてのアセスメントの位置づけだ。雇用率制度の対象を広げるなら、企業が合理的配慮を提供するための情報基盤が必要になる。就労アセスメントシートは、その基盤になりうるツールのはずだ。だが、現状はどうか。

活用ガイドが示す「理想の運用」と、現場の体温差

障害者職業総合センターが公開した「就労支援のためのアセスメントシート活用ガイド」は、シートの記入方法だけでなく、本人との面談の進め方、情報の引き継ぎ方法、支援計画への反映プロセスまでを体系的にまとめている。特に注目すべきは、「本人参加型のアセスメント」を原則として掲げている点だ。支援者が一方的に評価するのではなく、本人が自分の特性を言語化し、支援者と対話しながらシートを完成させるプロセスが推奨されている。

この方向性自体は正しい。しかし、現場の実情を見ると、いくつかの構造的な壁が立ちはだかる。

第一に、時間の壁。就労移行支援事業所の支援員一人あたりの担当利用者数は、平均して15〜20人程度とされる。一人ひとりと丁寧にアセスメント面談を行い、シートを作成し、定期的に更新するには、相当な時間が必要だ。報酬改定のたびに加算要件が増え、書類作成業務は膨らむ一方で、支援員の配置基準は大きく変わっていない。ガイドが求める「対話型アセスメント」を実現するための人的余裕が、多くの事業所にはない。

第二に、情報の断絶。就労移行支援事業所で作成されたアセスメントシートが、ハローワークや就労定着支援事業所、あるいは雇用先企業にどのように引き継がれるかは、現状では事業所ごとの裁量に委ねられている部分が大きい。ある支援員は「せっかく時間をかけて作ったシートが、次の支援先では『参考資料』として棚に置かれるだけ」と語る。情報が途切れれば、新しい支援先でまたゼロからアセスメントをやり直すことになる。これは本人にとっても大きな負担だ。

第三に、本人の「参加」の質。知的障害や重度の精神障害がある人の場合、シートに書かれた内容を本人が十分に理解し、主体的に関わることが難しいケースもある。ガイドは「本人参加」を原則としているが、認知特性や言語化の困難さに応じた具体的な工夫——たとえば絵カードの活用、動画による振り返り、家族や生活支援員からの情報収集——については、まだ十分に体系化されていない。「参加」の形は一つではないはずだ。

「評価される側」の経験から制度を見直す

アセスメントシートの問題を考えるとき、避けて通れないのが「評価する側とされる側」の権力構造だ。

障害のある人にとって、アセスメントは「自分が値踏みされる場」になりかねない。「この人は一般就労が可能か」「B型事業所が適切か」——そうした判断の材料として、自分の苦手なことや困りごとを開示しなければならない。ある当事者は「面談のたびに、自分のできないことを並べ立てられる気がする」と話してくれたことがある。

もちろん、アセスメントの目的は「できないこと」を列挙することではなく、「どんな環境なら力を発揮できるか」を見つけることだ。しかし、その意図が本人に伝わっていなければ、シートは「選別の道具」として受け取られてしまう。

障害者権利条約第27条は、障害者が「他の者との平等を基礎として労働についての権利」を有することを定めている。この条約の精神に立てば、アセスメントは「この人を雇用できるか」を判定するためではなく、「この人が働くために何が必要か」を共に考えるためのプロセスでなければならない。主語は常に「本人」であるべきだ。

第139回障害者雇用分科会で雇用率制度の対象拡大が議論されるなら、同時にアセスメントの在り方——誰が、何のために、どのように行うのか——も再定義される必要がある。制度の入口を広げるだけでは、中に入った人が安心して働き続けられる保証にはならない。

補装具評価検討会から見える「もうひとつの評価問題」

評価をめぐる課題は、就労アセスメントに限らない。第75回補装具評価検討会では、障害者が使用する補装具——義肢、車椅子、補聴器など——の支給基準や価格設定について議論が行われた。

補装具の評価基準は、利用者の身体状況や生活環境に基づいて決定されるが、ここでも「評価する側の基準」と「使う側の実感」のずれが指摘されている。たとえば、車椅子の支給基準は「移動の自立」を主な評価軸としているが、利用者にとっては「職場のデスクに合う高さか」「通勤経路の段差を越えられるか」といった、就労と直結する要素が重要な場合もある。

就労アセスメントシートと補装具の評価基準。一見すると別々の制度だが、どちらも「障害のある人の暮らしと働きを支える評価の仕組み」であり、「評価される当事者の声がどこまで反映されているか」という同じ問いを内包している。

現場から制度へ、制度から現場へ——循環をつくるために

では、何が必要なのか。三つの視点を提案したい。

1. アセスメントシートの「その後」を追跡する仕組み

作成されたシートが、どの段階で、どのように活用され、本人の就労にどう影響したのかを追跡するフィードバックループが必要だ。現状では、シートを作成した事業所が、その後の就労状況を把握できないケースが多い。障害者職業総合センターが活用ガイドを出すなら、同時に「活用実態調査」の枠組みも設計すべきだろう。

2. 支援員の「書く時間」を保障する報酬設計

丁寧なアセスメントには時間がかかる。それは「事務作業」ではなく「支援そのもの」だ。報酬体系の中で、アセスメント面談や情報連携にかかる時間を正当に評価する仕組みがなければ、ガイドの理念は絵に描いた餅になる。就労移行支援の基本報酬は一日あたり約6,000〜8,000円程度(定員規模による)だが、この中にアセスメントの工数が十分に織り込まれているとは言い難い。

3. 当事者が「自分のシート」を持ち歩ける仕組み

医療分野では「お薬手帳」や「マイナポータル」による情報の本人管理が進みつつある。就労支援の分野でも、アセスメント情報を本人が保有し、必要に応じて支援機関や企業に共有できる仕組みがあれば、情報の断絶は軽減される。何より、「自分の情報は自分のもの」という当たり前の原則が実現する。

小さな希望を、シートの余白に

ある就労移行支援事業所の支援員が、こんな工夫を教えてくれた。アセスメントシートの最後に、公式の記入欄とは別に「ご本人からひとこと」という自由記述欄を設けているという。「パン屋さんで働きたい」「電車が好きだから駅の近くがいい」「午前は苦手だけど午後なら頑張れる」——そこに書かれた言葉は、どんな評価項目よりもその人の「働きたい姿」を映し出していた。

制度は必要だ。ガイドラインも大切だ。しかし、その中心にいるのは、仕事に向かう一人の人間だ。就労アセスメントシートが「制度のための書類」ではなく「その人のための地図」になるために、分科会の議論も、センターのガイドも、そして現場の一枚一枚のシートも、もう少しだけ本人のほうを向いてほしい。

第139回障害者雇用分科会の議論の行方を、私たちは注視していく。

参照元(出典)

  1. 第139回 労働政策審議会障害者雇用分科会(令和8年6月22日開催予定)(wam.go.jp)
  2. 障害者職業総合センター NIVR(nivr.jeed.go.jp)
  3. 第75回補装具評価検討会 開催案内(mhlw.go.jp)

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