児童福祉施設の基準改正——子どもの「1日」は、どこから変わるのか

児童福祉施設の基準改正——子どもの「1日」は、どこから変わるのか

6畳一間に4人の子どもが目を覚ます

児童養護施設で暮らす子どもたちの朝は早い。起床、洗面、着替え、朝食。限られたスペースで、限られた職員が、限られた時間のなかで子どもたちの1日を回していく。その「限られた」の枠組みを決めてきたのが、「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」だ。

いま、この基準の改正に向けた動きが進んでいる。内閣府がパブリックコメントを募集し、こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援部会でも関連する議論が重ねられている。部屋の広さ、職員の数、食事のあり方——改正案の項目を並べれば「数字の話」に見えるかもしれない。けれど、その数字の一つひとつが、施設で暮らすおよそ2万5,000人の子どもたちの毎日に直結している。

本記事では、今回の基準改正の中身を読み解きながら、子どもたちの「1日」がどう変わりうるのかを考えたい。

居住面積——「自分の場所」があるということ

現行の基準では、児童養護施設における子ども1人あたりの居室面積の最低基準は、おおむね4.95平方メートル(1歳以上の場合)とされている。畳に換算すると約3畳。ここに机を置き、布団を敷き、わずかな私物を並べる。思春期の子どもが「一人になりたい」と思ったとき、その願いをかなえる物理的な余裕はほとんどない。

今回の改正議論では、この居住面積の引き上げが焦点の一つとなっている。近年の社会的養護の流れは「大舎制」から「小規模グループケア」「地域小規模児童養護施設(グループホーム)」への移行を進めてきた。2024年時点で、小規模化・地域分散化に取り組む施設は増加傾向にあるものの、建物の構造上、面積基準を満たせないケースも少なくない。

面積が広がることの意味は、単に「ゆとりができる」という話ではない。子どもの権利条約が掲げる「プライバシーの権利」を、物理的に保障するための土台だ。児童養護施設を退所した当事者からは、「自分だけの空間がなかったことが、いちばんつらかった」という声が繰り返し語られてきた。数字の変更は、その声への応答でもある。

ただし、面積基準の引き上げには、施設の改修・建て替え費用という現実的な壁がある。厚生労働省の調査によれば、児童養護施設の約4割は築30年以上の建物で運営されている。基準を引き上げるなら、それに見合う財政支援の設計が不可欠だ。基準だけが先に変わり、現場が追いつけないという事態は、過去の制度改正でも繰り返されてきた。

職員配置——「あと1人いれば」の切実さ

現行の職員配置基準は、児童養護施設の場合、子ども5.5人に対して職員1人(2024年度の改善後の数値)とされている。しかし、この数字はあくまで「日中の配置」であり、夜間は1人の職員が20人以上の子どもを見ているケースも珍しくない。

夜間、子どもが泣いている。別の子どもが体調を崩している。さらに別の子どもが「眠れない」と訴える。1人の職員がこれらに同時に対応しなければならない現実がある。ある施設職員は「子どもの話をちゃんと聞きたいと思っても、物理的に時間がない。『あとでね』と言い続ける自分がつらい」と語る。

今回の改正議論では、この配置基準のさらなる改善が求められている。特に注目されるのは、心理的ケアを担う専門職の配置だ。児童養護施設に入所する子どもの約6割は、虐待を経験しているとされる。トラウマを抱えた子どもに対して、日常生活の支援と心理的ケアを同じ職員が担うことには限界がある。

配置基準の改善は、子どもの安全に直結する。しかし同時に、福祉人材の確保という構造的な課題とも切り離せない。全国の児童養護施設における職員の離職率は、一般企業と比較しても高い水準にある。処遇改善加算などの施策は進んでいるものの、月額数万円の上乗せで解決する問題ではない。「基準を変える」と「人を集める」は、車の両輪として同時に回さなければ意味がない。

食事——「何を食べるか」は「どう大切にされるか」

施設での食事は、子どもたちにとって1日のなかで最も「家庭」に近い時間だ。しかし、多くの施設では調理業務の外部委託が進み、大量調理による一律メニューが提供されている現実がある。アレルギー対応は進んできたものの、「今日は何が食べたい?」という問いかけが日常的に行われている施設は、まだ多くはない。

今回の改正議論では、子ども一人ひとりの状態に応じた食事提供のあり方が論点に上がっている。背景には、施設入所児童の栄養課題がある。入所前の養育環境によっては、極端な偏食や、食事そのものへの恐怖を抱えている子どももいる。「食べること」の支援は、栄養摂取の問題であると同時に、「自分は大切にされている」という感覚を育む営みでもある。

小規模化が進んだ施設では、子どもと職員が一緒に献立を考え、買い物に行き、調理するという取り組みが広がっている。こうした実践は、退所後の自立生活に向けた準備としても重要だ。基準改正がこうした取り組みを後押しするものになるのか、それとも書類上の要件が増えるだけに終わるのか。制度設計の具体が問われる。

貧困対策との交差点——見えにくい子どもたちのこと

こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援部会では、施設で暮らす子どもたちだけでなく、在宅で支援を受けている子どもたちの生活環境についても議論が進んでいる。児童福祉施設の基準改正は、施設入所児童に直接関わる話だが、その波及効果はもっと広い。

例えば、ショートステイ(短期入所生活援助事業)を利用する家庭にとって、施設の環境は「わが子を預ける場所」の質そのものだ。ひとり親家庭の親が入院や就労のために一時的に子どもを預ける際、その施設がどのような環境であるかは、利用をためらうかどうかの分かれ目になる。

2022年の国民生活基礎調査によれば、子どもの貧困率は11.5%。約7人に1人の子どもが相対的貧困の状態にある。この数字の向こう側には、児童福祉施設と何らかの接点を持つ可能性のある子どもたちが確実に存在する。基準改正は、その子どもたちにとっての「セーフティネットの質」を決める議論でもある。

パブリックコメント——「私たちのこと」を伝える機会

今回の基準改正案に対するパブリックコメントの募集は、当事者や支援者にとって、制度設計に声を届ける貴重な機会だ。しかし、パブリックコメントという仕組み自体が、施設で暮らす子どもたちにとってアクセスしやすいものかと言えば、そうとは言い難い。

近年、こども家庭庁は「こどもの意見表明」を政策の柱の一つに据えている。であるならば、施設の基準を変えるという、まさに子どもたちの暮らしに直結する議論において、子どもたち自身の声をどう集め、どう反映するのかが問われる。形式的な意見聴取ではなく、子どもたちが「自分の暮らしについて意見を言っていい」と感じられる仕組みが必要だ。

数字の先にある、一人ひとりの朝

居住面積が何平方メートルになるか。職員が何人配置されるか。食事がどう提供されるか。これらはすべて「基準」という数字の話だ。けれど、その数字が変わることで、ある子どもの朝が少しだけ穏やかになるかもしれない。「おはよう」と声をかけてくれる大人が、もう1人増えるかもしれない。

制度は万能ではない。基準を変えただけで、子どもたちの暮らしが劇的に良くなるわけではない。けれど、基準が変わらなければ始まらないことも、確かにある。

今回の改正議論が、「子どもの最善の利益」という理念を、日々の暮らしのなかに実装していく一歩になるのか。パブリックコメントの締め切りまでに、一人でも多くの人がこの問いを自分ごととして考えてくれたら——そう願っている。

参照元(出典)

  1. 児童福祉施設の設備及び運営に関する基準及び放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準の一部を改正する内閣府令案に関する御意見の募集について(public-comment.e-gov.go.jp)
  2. 第7回 こども家庭審議会 こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援部会(令和8年6月29日開催予定)(wam.go.jp)
  3. ハートネット | NHK(heart-net.nhk.or.jp)

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