
「働きたい」という気持ちがあるのに、どこに相談すればいいか分からない。面接がうまくいかない。就職しても長く続かない——。障害のある方が仕事に就くまで、そして働き続けるまでの道のりには、さまざまなハードルがあります。
そうしたハードルを一つひとつ取り除くために設けられているのが「職業リハビリテーション」という制度です。名前を聞いたことはあっても、具体的に何をしてくれるのか、どうやって利用するのか、よく分からないという方は多いのではないでしょうか。
今回は、この職業リハビリテーションの全体像を、できるだけ噛み砕いてお伝えします。
この制度って何?——「働く」を支えるリハビリテーション
職業リハビリテーションとは、障害のある方が自分に合った仕事に就き、それを続けていくために行われる一連の支援のことです。身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、高次脳機能障害、難病など、障害の種別を問わず利用できます。
「リハビリ」というと、病院で身体機能を回復させるイメージが強いかもしれません。でも、職業リハビリテーションの守備範囲はもっと広いんです。具体的には、次のような支援が含まれます。
- 職業相談・職業評価:本人の希望や適性、障害特性を踏まえて「どんな仕事が合いそうか」を一緒に考える
- 職業準備支援:働くために必要な生活リズムの整え方、コミュニケーションの練習、ビジネスマナーの習得など
- 職業訓練・職場実習:実際の作業を体験しながらスキルを身に付ける
- ジョブコーチ支援:就職先の職場に支援者が入り、本人と企業の双方をサポートする
- リワーク支援(職場復帰支援):精神疾患などで休職した方が復職するための支援
- 事業主への助言:雇用する企業側に対して、職場環境の調整や配慮のあり方を提案する
ポイントは、本人だけでなく「雇う側」への支援もセットになっていること。働く人と職場の両方に働きかけるからこそ、就職後の定着につながるんですね。
なぜこの制度は生まれたのか——歴史的な背景
職業リハビリテーションの考え方は、もともと戦後の傷痍軍人の社会復帰を目的として発展しました。日本では1960年に「身体障害者雇用促進法」が制定され、身体障害のある方の雇用を社会全体で支える仕組みが動き始めます。
その後、1987年に法律が「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」へと改正され、対象が知的障害のある方にも広がりました。さらに2006年には精神障害のある方も対象に加わり、2018年からは精神障害者の雇用が法定雇用率の算定基礎に含まれるようになっています。
こうした法制度の拡充と並行して、職業リハビリテーションの中核機関として整備されたのが地域障害者職業センターです。各都道府県に1か所以上、全国に52か所設置されており、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が運営しています。また、研究・開発の拠点として障害者職業総合センター(千葉県幕張)が設けられ、支援技法の開発や調査研究を担っています。
つまり、この制度は「障害があっても働ける社会をつくろう」という数十年にわたる積み重ねの上にあるわけです。
利用するにはどうすればいい?——手続きの流れ
「利用してみたい」と思ったとき、最初の窓口になるのはお住まいの地域にある地域障害者職業センターです。ハローワーク(公共職業安定所)から紹介を受けて利用するケースが多いですが、本人や家族が直接相談することもできます。
大まかな流れは次のとおりです。
- 相談の申し込み:地域障害者職業センターに連絡し、面談の日程を決める
- 職業評価:障害者職業カウンセラーが、本人の希望・経験・障害特性を把握し、作業検査や面談を通じて適性を評価する(通常2〜4日程度)
- 職業リハビリテーション計画の策定:評価結果をもとに、本人と一緒に支援の方針と具体的なメニューを決める
- 支援の実施:職業準備支援プログラムへの参加、ジョブコーチ支援の利用、職場実習の調整など
- 就職・職場定着のフォローアップ:就職後も一定期間、職場への訪問や相談を続ける
利用料は無料です。障害者手帳の有無にかかわらず、医師の診断書などで障害があることが確認できれば利用できる場合もあります。「手帳がないから使えない」と諦めず、まずは相談してみてください。
運用の実際——数字で見る現場のリアル

制度があっても、実際にどれくらい使われているのか。いくつかの数字を見てみましょう。
厚生労働省の発表によると、2024年6月時点の民間企業における障害者の実雇用率は2.41%で、法定雇用率(2024年4月から2.5%)には届いていないものの、過去最高を更新しました。雇用されている障害者の数は約67万7千人に達しています。
一方で、地域障害者職業センターの利用状況を見ると、職業準備支援の利用者数は年間約5,000人前後、ジョブコーチ支援の対象者数は年間約4,000人前後で推移しています。67万人を超える雇用者数と比べると、職業リハビリテーションの直接的な利用者はまだ一部にとどまっているのが現状です。
この背景には、いくつかの事情があります。
自治体・地域による差
地域障害者職業センターは各都道府県に設置されていますが、人口規模や障害者数に対してカウンセラーの配置が十分でない地域もあります。都市部では予約が取りにくいケースがある一方、地方では物理的にセンターまで通うのが難しいという声も聞かれます。
就労系福祉サービスとの関係
障害のある方の「働く」を支える制度は、職業リハビリテーションだけではありません。障害者総合支援法に基づく就労移行支援、就労継続支援A型・B型、2024年4月から本格実施された就労選択支援なども並行して存在します。
利用者からすると、「自分はどの制度を使えばいいのか」が分かりにくいという問題があります。大まかに言えば、地域障害者職業センターの職業リハビリテーションは雇用に直結する専門的な支援に強みがあり、就労移行支援事業所は日常的な通所を通じた段階的な準備に特徴があります。ただ、実際にはこの境界は曖昧で、両方を利用する方もいます。
週20時間未満の働き方への対応
障害者職業総合センターの調査研究では、週20時間未満で働く障害者のニーズや雇用実態の把握が進められています。2024年4月からは、週10時間以上20時間未満で働く重度障害者や精神障害者を雇用した場合に、法定雇用率に算定できる「特例的な取扱い」が導入されました。
これは、フルタイムや週20時間以上の勤務が難しい方にも雇用の門戸を広げる重要な一歩です。ただし、短時間であっても安定して働き続けるためには、きめ細かな職業リハビリテーションの支援が欠かせません。
研究発表会という「現場の知恵の共有」
障害者職業総合センターでは毎年「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を開催しています。2025年度は第34回にあたり、全国の支援者や研究者、企業の担当者が集まって、現場で積み上げた支援の工夫や調査研究の成果を発表し合います。
この発表会で注目されるテーマの一つが、若年性認知症のある方への就労支援です。若年性認知症は65歳未満で発症する認知症で、働き盛りの年代で診断を受けるケースが少なくありません。「診断を受けたら仕事を辞めるしかないのか」という不安に対して、職場環境の調整や業務内容の見直しによって就労を継続できた事例が報告されています。
また、ジョブコーチ支援の効果検証や、発達障害のある方の職場定着に関する実践報告なども蓄積されています。こうした知見は報告書として公開されており、支援者だけでなく、当事者や家族にとっても参考になる情報が含まれています。
私たちが考えなくてはいけないこと
職業リハビリテーションは、「障害のある人が働く」ことを支える制度として着実に発展してきました。しかし、いくつかの課題が残っています。
一つ目は、制度の認知度の低さです。 障害のある当事者やその家族の中にも、地域障害者職業センターの存在を知らない方は少なくありません。ハローワークとの連携は進んでいますが、医療機関や教育現場からの情報提供はまだ十分とは言えない状況です。
二つ目は、支援の「その先」です。 就職はゴールではなく、働き続けることが大切です。ジョブコーチ支援には利用期間の目安があり、フォローアップが終了した後に職場で孤立してしまうケースもあります。企業内の支援体制づくりや、地域の就労・生活支援センターとの連携をどう強化するかが問われています。
三つ目は、多様な「働く」のかたちへの対応です。 テレワークの普及、ギグワークの拡大、副業・兼業の増加など、働き方そのものが変化しています。従来の「企業に雇用される」モデルを前提とした支援だけでは、こぼれ落ちる人が出てきます。フリーランスや起業を目指す障害のある方への職業リハビリテーションのあり方は、まだ十分に議論されていません。
「働く」ことは、収入を得るだけでなく、社会とのつながりや自分の役割を感じられる大切な営みです。職業リハビリテーションという制度が、より多くの人に届き、一人ひとりの「働きたい」に応えられるものになっているか——私たち一人ひとりが関心を持ち続けることが、制度を育てる力になるのだと思います。
もう少し知りたい方へ
- 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED):地域障害者職業センターの所在地一覧や、職業リハビリテーションの各種サービスの詳細が掲載されています。https://www.jeed.go.jp/
- 障害者職業総合センター 研究報告書・調査研究報告書:職業リハビリテーションに関する調査研究の成果が公開されています。支援者向けの資料だけでなく、当事者にも参考になる内容が含まれています。https://www.nivr.jeed.go.jp/
参照元(出典)
- 障害者職業総合センター NIVR nivr.jeed.go.jp
- WAM NET wam.go.jp
- 第226回労働政策審議会職業安定分科会を開催します mhlw.go.jp
執筆者プロフィール

福祉制度・法律分野に詳しく、事業者や支援者、当事者にとって実践的な記事の執筆を行っている。複雑な制度の背景や目的まで丁寧に読み解くことを得意とする。