介護サービス情報公表システムの使いづらさとアクセシビリティ改善の動き

介護サービス情報公表システムの使いづらさとアクセシビリティ改善の動き

母の介護サービスを探そうとして、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」を開いたことがある人は、どれくらいいるだろう。そして、そのうち何人が、欲しい情報にたどり着けただろう。

データは確かにそこにある。けれど「公表されている」ことと「届いている」ことのあいだには、思った以上に深い溝がある。オープンデータの更新やフォントの標準化という地味だけれど大切な動きを手がかりに、福祉情報のアクセシビリティの現在地を見てみたい。

約21万件の事業所情報、CSVファイルで届けられても

介護サービス情報公表システムは、全国の介護事業所の基本情報や運営状況を一般に公開する仕組みだ。厚生労働省が運営し、2025年時点で掲載されている事業所数はおよそ21万件にのぼる。訪問介護、通所介護、特別養護老人ホームなど、サービスの種類ごとにデータが整理され、CSV形式のオープンデータとしても無償で提供されている。

CSVファイルのサイズは、訪問介護で約15.4MB、通所介護で約10.1MB。数字だけ見るとコンパクトだが、中身は数万行にわたる事業所の所在地、定員、職員体制、苦情対応の有無などの情報だ。自治体や研究者、介護事業のコンサルタントにとっては貴重な素材になる。

しかし、ここで立ち止まって考えたい。このデータを本当に必要としているのは誰か。多くの場合、それは「これから介護サービスを使いたい本人」や「親の介護をどうしようかと悩んでいる家族」だ。CSVファイルを開いてExcelで並べ替えができる人ばかりではない。70代の母親がひとりで検索して、自宅近くのデイサービスの空き状況を調べられるか。視覚障害のある当事者が、スクリーンリーダーで情報を聞き取れるか。「公表」の先にある「届ける」の設計が問われている。

フォントが変わると、何が変わるのか

デジタル庁が整備を進めている「行政事務標準フォント」は、一見すると介護とは関係のない話に思える。だが、フォントは情報の「読みやすさ」を左右する基盤だ。

行政事務標準明朝フォントは、戸籍や住民票などで使われる漢字の字形を統一し、デジタル環境でも正しく表示できるようにすることを目的としている。追加文字の整備により、氏名に使われる異体字や旧字体も正確に表示できるようになった。

これは「正確さ」の話であると同時に、「読みやすさ」の話でもある。たとえば、介護保険証や通知文書に印字された文字が潰れて読めない、という経験をした高齢者は少なくない。文字が小さい、コントラストが低い、書体が複雑——こうした「ちょっとした読みにくさ」の積み重ねが、情報から人を遠ざける。

ただし、フォントの改善だけで問題が解決するわけではない。フォントはあくまで情報を届けるための「器」のひとつだ。器がきれいになっても、中身の盛り付けが雑なら届かない。大切なのは、フォント、画面設計、情報の構造、音声対応といった要素がひとつの思想のもとに統合されることだ。

「使いづらい」の中身を分解する

介護サービス情報公表システムに対しては、以前から「使いづらい」という声がある。では、その「使いづらさ」は具体的にどこにあるのか。

まず、検索の入り口の問題がある。サービスの種類を選び、地域を選び、条件を絞り込む——この手順自体が、介護の制度に詳しくない人にはハードルになる。「訪問介護」と「訪問看護」の違いがわからない人にとって、最初のプルダウンメニューで迷子になる。

次に、検索結果の表示。事業所名、住所、電話番号が一覧で出てくるが、「結局この事業所は何が得意なのか」「うちの親に合うのか」という判断材料が見えにくい。詳細ページに進んでも、法令で定められた公表項目が淡々と並んでいるだけで、読み解くには相当の知識が必要だ。

さらに、アクセシビリティの観点では課題が残る。日本視覚障害者ICTネットワーク(JBICT.net)などの調査によれば、多くの行政系ウェブサイトでスクリーンリーダーによる操作が困難な箇所が報告されている。ボタンのラベルが適切でない、フォーカス順序が直感的でない、画像に代替テキストがないといった問題は、技術的には解決可能なものばかりだ。

令和4年の厚生労働省「生活のしづらさなどに関する調査」では、視覚障害のある人のうち、日常的に情報取得に困難を感じていると回答した割合が高い水準にあることが示されている。約31万人とされる視覚障害者の暮らしの中で、行政情報へのアクセスは生活の質に直結する。「見えない人には関係ない情報」ではなく、「見えない人にこそ届けなければならない情報」なのだ。

現場で起きていること—ケアマネジャーの「翻訳」作業

実際の介護サービス選びの場面では、多くの場合ケアマネジャー(介護支援専門員)が情報の「翻訳者」になっている。公表システムのデータを読み解き、利用者の状態や希望に合わせて候補を絞り、わかりやすく説明する。この翻訳作業があるからこそ、制度は何とか回っている。

しかし、それは裏を返せば、ケアマネジャーがいなければ情報にたどり着けない構造でもある。ケアマネジャー1人あたりの担当件数は標準で35件。2024年度の介護報酬改定では逓減制の緩和が進んだものの、現場の忙しさは変わっていない。情報の翻訳を人の力だけに頼り続けるのは限界がある。

だからこそ、システム側が「翻訳済み」の情報を届ける設計に変わる必要がある。たとえば、利用者の状態像(認知症の有無、医療的ケアの必要性など)を入力すると、対応可能な事業所が優先的に表示される仕組み。あるいは、事業所の特徴を短い文章で要約した「わかりやすい紹介文」の掲載。技術的には難しくないことが、制度設計の優先順位の中で後回しにされてきた。

「届ける」ための三つの視点

福祉情報のアクセシビリティを高めるために、三つの視点を提案したい。

第一に、「使う人」を起点にした設計への転換。現在のシステムは、法令で定められた公表項目を漏れなく掲載することが優先されている。それ自体は必要なことだが、利用者が最初に目にする画面は、もっとシンプルであっていい。「お住まいの地域」「困っていること」の二つを入れるだけで候補が出てくる——そんな入り口があれば、情報への距離はぐっと縮まる。

第二に、ウェブアクセシビリティ基準の徹底。JIS X 8341-3(ウェブアクセシビリティの日本産業規格)への適合は、行政サイトでは義務的な取り組みとされているが、実際の適合レベルにはばらつきがある。2024年4月に施行された改正障害者差別解消法では、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務化された。行政の情報公表システムが率先して高い基準を満たすことは、社会全体のアクセシビリティ底上げにもつながる。

第三に、当事者テストの制度化。システムの改修時に、視覚障害のある人、高齢者、知的障害のある人など、実際の利用者に操作してもらい、フィードバックを設計に反映する仕組みを組み込むことだ。これはコストのかかる話ではない。ユーザビリティテストの手法はすでに確立されており、5人のテストで問題の約85%が発見できるという研究もある(ヤコブ・ニールセン)。必要なのは予算よりも、「使う人の声を聞く」という意思決定だ。

小さな変化の先に

オープンデータの更新も、フォントの標準化も、一つひとつは地味な改善だ。ニュースの見出しにはなりにくいし、SNSで話題になることもほとんどない。

でも、こうした地味な改善の積み重ねが、誰かの「調べてもわからなかった」を「自分で選べた」に変えることがある。母親の介護サービスを夜中にひとりで検索している家族が、少しでも早く必要な情報にたどり着けること。視覚障害のある当事者が、自分で事業所の情報を確認して「ここに通いたい」と言えること。そういう一つひとつの場面を想像しながら、情報の届け方を考え続けたい。

制度の情報は、届いてはじめて「公表」になる。まだその途上にあることを、私たちは忘れずにいたい。
参照元(出典)

  1. [更新] 介護サービスの情報公表システム オープンデータ|厚生労働省 mhlw.go.jp
  2. 地方公共団体情報システムにおける文字の標準化に係る「追加文字行政事務標準明朝フォント」を掲載しました digital.go.jp
  3. [更新] 介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」 kaigokensaku.mhlw.go.jp

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