療育手帳「全国統一」に向けた動き~メリット・デメリットを徹底解剖

療育手帳「全国統一」に向けた動き~メリット・デメリットを徹底解剖

療育手帳は、知的障害のある人の保護や自立を支援し、各種福祉サービスを利用する際の証明として、自治体から交付されるものです。
「地方自治体を越えて引っ越したら、療育手帳の等級が変わってしまった」
「地方自治体によって療育手帳の名前すらちがう」
当事者は、この事実に違和感を感じていらっしゃるのではないでしょうか。
この記事では、現在までの療育手帳の歴史と背景について、そして、2026年からの療育手帳の全国統一の動きについてお話しします。
また、療育手帳が全国統一することによって生じるメリット・デメリットについてもお伝えしていきます。

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なぜ療育手帳は地域によって「バラバラ」なのか?制度の歴史と背景

療育手帳の基準は全国で統一されておらず、現在も自治体によって異なります。
身体障害者手帳は身体障害者福祉法、精神障害者保健福祉手帳は精神保健福祉法が根拠になっていますが、療育手帳にはこれまで、根拠になっている法律はありませんでした。

「療育手帳」の根拠になっているものは何?

療育手帳の根拠になっているものは、法律ではありません。
療育手帳は、1973(昭和48)年の厚生事務次官通知「療育手帳制度について」をガイドラインとして、各自治体(都道府県・政令指定都市)が独自に条例や規則を作って運営してきました。
そのため、「療育手帳」の名前も各自治体により異なり、障害の区分も異なります。
たとえば、東京都では療育手帳を「愛の手帳」と呼び、埼玉県では「みどりの手帳」と呼びます。

区分についても、国の通知は「A(重度)」と「B(その他)」の2区分ですが、自治体によっては「A・B・C」の3区分や、「1~4度」など、もっと細分化されている自治体もあります。

このようなことから全国統一を求める声が急速に高まっている中、様々な議論が活発になっています。

マイナンバーカード、ミライロID等のデジタル化との相性

国が進める行政のデジタル化において、地域ごとに基準がちがうことが足かせになっています。
一歩自分の地方自治体を出ると、療育手帳の判定基準がちがうため、たとえば交通機関を利用するときに「A判定(重度)」であれば本人と介護者両方が半額になります。
ところが、「B判定(軽度)」であった場合は本人のみ半額、あるいは割引対象外になるというルールになってしまうことも生じます。
療育手帳が全国統一できていないというところが、療育手帳でおこなう自動化を妨げている要因のひとつとなっています。

国会や当事者団体の動き

当事者団体からは、「県境を越えるだけで支援が途切れるのはおかしい」と切実な声が上がり続けています。
全国手をつなぐ育成会連合会などの団体は、身体障害者や精神障害者のように「法律(知的障害者福祉法など)にもとづく制度」として確固たるものに格上げすべき」と強く訴えています。
またこの問題は、行政の窓口にとっても大きな負担となっています。
他県から転入してきた人の手帳を自県の基準に「再判定」する業務は複雑であるため、複数の地方公共団体が国に対して「国が責任をもって知的障害の定義と判定基準を統一してほしい」とSOSを出している状態です。

全国統一に向けて、今何が起きているのか?

行政、現場、デジタルの3つの視点から、現在進行形で進んでいる「統一への具体的な動き」を解説します。

厚生労働省による「実態調査」と「検討会」が始まる

長年放置されてきた地域格差に厚生労働省やこども家庭庁が本格的に動き出しています。
まず、「全国の自治体が、現在どのような基準で判定しているか」の調査をおこないました。
その結果をもとに、社会保障審議会(障害者部会など)の場で「療育手帳の判定基準の全国統一」に向けた専門の検討会が立ち上がり、議論が本格化しています。

新たな全国統一ツール(尺度)の開発とモデル事業

心理的・福祉的な観点からも大きな動きが生じています。
今まで地方自治体によってバラバラだった定規を一本化するための新しい評価ツールが現場に導入されようとしています。
これまでは「田中ビネー」や「WISC」などの知能検査と、自治体独自の生活能力チェックを組み合わせていましたが、これを全国共有にするための「新しいものさし」ができつつあるのです。
WHOの国際基準(ICD-11)にもとづいた、知的機能と適応行動を総合的に評価できる新たな判定ツール、ABIT-CV(Adaptive Behavior and Intelligence Test – Clinical Version:療育手帳の交付判定のための知的機能/適応行動の評価尺度)の開発が進められています。
知的機能の評価については、20~30分でできるものとなっています。
また、適応行動については、Vineland-Ⅱ適応行動尺度およびほかの発達検査等の項目を参考にして、独自に220項目作成されています。
すでに一部の自治体をモデル地域として指定し、この新しい基準を使ったテスト運用がスタートしようとしています。

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デジタル庁主導の「データ仕様の標準化」の圧力

福祉の都合だけでなく、国のデジタル化推進という圧力が、結果的に療育手帳のフォーマット統一を急がせているという実情があります。
国はマイナンバーカードを活用した「マイナポータル」で、あらゆる行政手続きをオンライン化しようとしています。
そのためには、各自治体がバラバラにつかっている療育手帳のデータを、システム上で読み取れる「全国共通の標準データ形式」に変換しなければなりません。
「デジタル化の波」が療育手帳統一を強力に後押ししようとしているのです。

療育手帳を「全国統一」にする4つのメリット

それでは、療育手帳をもし「全国統一」にしたら得られるメリットを4つご紹介します。

引っ越しのときの「再判定」負担の解消

県境を越えても手帳がそのまま引き継がれ、見知らぬ土地の児童相談所などで何度もテストを受け直す心理的・体力的負担がなくなります。

支援の地域格差(不公平感)が少なくなる

「住む場所」によって受けられる福祉サービスや割引制度に大きな格差がある現状を少なくできます。

全国的なサービスの利便性向上

公共交通機関(新幹線、飛行機、高速道路など)や全国展開する商業施設での、療育手帳の確認作業がスムーズになります。

行政コストの削減とデジタル化の加速

自治体ごとにバラバラだったシステムを国が一元化することによって、システム開発・維持コストが下がります。
それによって、スマホでの管理なども簡単になります。

懸念されるデメリットと、統一の前に立ちはだかる「3つの壁」

療育手帳の全国統一をするメリットはあるものの、単純に統一すればすべて丸くおさまるかというと、そんな単純な問題ではありません。
懸念されるデメリットについてもお話しします。

サービスのダウングレード(下方修正)のリスク

これまで独自の基準で手厚い福祉(手当の支給、医療費助成など)をおこなっていた自治体が、全国平均の基準に合わせることで「サービスが低下する」おそれがあります。
これまでであれば「療育手帳」で一定の判定が出ていた人たちの等級が軽くなることも懸念されます。
そうなったときに、今まで受けることのできたサービスが受けられなくなる、という事態も考えられます。

知的障害の境界域(グレーゾーン)の切り捨て問題

判定基準がひとつに固定されることによって、これまで「軽度」として療育手帳を交付されてきた人が、新しい基準では「対象外」になってしまうリスクがあります。
それによって、今まで支援されてきたグレーゾーンの対象者が支援を受けられなくなるおそれがあるのです。
その反対に、グレーゾーンの対象者が急増したとしても、自治体の財政を圧迫するリスクもあります。
グレーゾーンの人たちをどう救っていくのかは大きな課題です。

自治体の裁量権と財政負担の調整

たとえば地域によって、物価や交通インフラ(車社会か電車社会か)が異なるため、一律の基準が地域の現実に合わないケースが出てきます。
東京都であれば、療育手帳を持っていれば「都営交通券」が発行され、都営バスや都営地下鉄が無料になります。
ですが、車社会であった場合、電車の交通券が発行されても役には立たないでしょう。
このように、地方自治体の裁量権はある程度あった方が、地域の事情に合ったサポートがしやすいのですが、全国統一になることにより、その裁量権が狭められるおそれがあります。

まとめ

「療育手帳」の全国統一については、メリットもデメリットも実際にあります。
実際に全国どこでも一律の判定がおり、一律のサービスが受けられるようになるというメリットはあるでしょう。
反対に、地方自治体のきめ細やかなサービスが受けにくくなるかもしれないデメリットも生じるかもしれません。
今後の動きをぜひしっかり見ていきましょう。

参考:療育手帳に係る判定基準統一化の検討進捗報告 |厚生労働省療育手帳の在り方の検討状況について |厚生労働省

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