「認知症介護実践者研修」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。介護の仕事に携わっていると、職場から「受けておいてほしい」と勧められたり、求人票に「修了者歓迎」と記載されていたりと、さまざまな場面でこの研修の名前が登場します。とはいえ、「そもそも何のための研修なのか」「どんな内容を学ぶのか」「自分には関係があるのか」といった疑問をお持ちの方も少なくないはずです。
本記事では、認知症介護実践者研修の基本的な概要から研修内容、受講要件、修了後の活かし方まで、わかりやすくお伝えします。
認知症介護実践者研修とは何か?
まずは、この研修がどういうものなのかという全体像から押さえていきましょう。
研修が生まれた背景
日本は世界でも類を見ない速度で高齢化が進んでおり、認知症の方の数は今後も増え続けると見込まれています。厚生労働省の研究班による推計(2024年公表)では、2022年時点での認知症高齢者はおよそ443万人にのぼるとされています。
軽度認知障害(MCI)の高齢者は同時点で約559万人と推計されており、認知症またはその予備群の合計は1,000万人を超え、高齢者のおよそ3.6人に1人が該当する状況です。さらにこの推計によると、2040年には認知症高齢者が約584万人、MCI高齢者が約613万人に達し、高齢者の約3.3人に1人が認知症または軽度認知障害になると見込まれています。こうした背景から、介護現場での認知症ケアの質を組織的に高める必要性が高まり、国が体系的に整備した研修制度の一つが「認知症介護実践者研修」です。
研修の目的と位置づけ
認知症介護実践者研修は、厚生労働省が定める「認知症介護実践者等養成事業」のなかに位置づけられた公的な研修制度です。2026年4月1日に施行された最新の通知(介護保険最新情報Vol.1487)では、研修の「ねらい」があらためて明確化されました。
そこでは、認知症の人への正しい理解のもと、本人と家族が尊厳を保ち、希望を持って暮らせるよう、認知症介護の理念や知識・技術を身につけること、そして共生社会の実現に向けてケアの質を高められるようになることが掲げられています。単なる知識の習得にとどまらず、利用者本人と家族の尊厳を守り、地域社会での共生を支えるという視点が研修の核心に据えられているわけです。
研修体系のなかでの位置
認知症介護に関する研修は、複数のレベルに分かれた階段状の体系になっています。最も基礎的なものが「認知症介護基礎研修」であり、その次のステップが本記事で解説する「認知症介護実践者研修」にあたります。
さらに上位には、チームをまとめるリーダー向けの「認知症介護実践リーダー研修」、研修全体を企画・指導する立場の「認知症介護指導者養成研修」と続いていきます。つまり認知症介護実践者研修は、「基礎を身につけた次のステージ」として、現場での実践力を深めるための研修と位置づけられるでしょう。
誰が受けるべき?受講要件を確認しよう

次に気になるのが「自分は対象になるのか」という点ではないでしょうか。ここでは、どんな職員が受講できるのか、どのような条件が求められるのか、そして申し込みの手順までを順番に見ていきましょう。
対象となる介護職員
認知症介護実践者研修の受講対象者は、介護保険施設や居宅サービス事業所などに従事する介護職員等です。特別養護老人ホームや介護老人保健施設のような施設系サービスはもちろん、訪問介護や通所介護といった在宅系サービスで働く職員も対象に含まれます。
幅広い現場の職員が受けられる研修であり、特定の施設形態に限定されていない点が特徴です。日頃から認知症の方と関わる機会のある職員であれば、多くが対象になり得ると考えてよいでしょう。
主な受講要件
受講にあたっては、2026年4月1日施行の最新通知(介護保険最新情報Vol.1487)でいくつかの要件が定められています。具体的には、認知症介護基礎研修を修了していること(または同等以上の能力を有すること)、身体介護に関する基本的な知識と技術を習得していること、介護実務の経験がおおむね2年程度あることなどです。
いずれも「ある程度現場を経験した職員」を想定した内容となっています。まったくの未経験者向けではなく、一定のキャリアを積んだ方が次の段階へ進むための研修だと捉えるとわかりやすいかもしれません。
受講申し込みの流れ
受講の申し込みは、所属する事業所を通じて行うのが一般的です。研修は各都道府県が実施主体となっているため、実施時期や定員、選考基準は都道府県ごとに異なります。
人気の研修は定員が埋まりやすい傾向もあるため、受講を希望する場合は早めの行動が大切です。まずは勤務先や各都道府県の担当窓口で、募集状況や日程を確認しておくとよいでしょう。
研修では何を学ぶ?カリキュラムの中身
ここでは講義や演習の内容、研修の山場ともいえる職場実習、そして近年広がりつつあるオンライン受講について解説していきます。
講義・演習の概要
2026年4月1日施行の最新カリキュラム(介護保険最新情報Vol.1487)によると、認知症介護実践者研修の標準的な研修時間は講義・演習が23時間です。これに加えて、課題設定や職場実習4週間、実習のまとめといった実習部分が組み合わされます。
学ぶ内容は大きく2つのまとまりに分かれています。前半は「認知症ケアの基本」として、研修そのものの理解から、認知症ケアの理念、生活支援の方法、権利擁護の視点に基づく支援、家族介護者への理解と支援、行動・心理症状(BPSD)への対応などを扱います。後半は「アセスメントとケアの実践」として、学びを現場で展開する方法や、地域資源の理解と活用、アセスメントとケアの実践の基本を学んでいく流れです。知識の講義だけでなく、事例演習やロールプレイを交えた演習が各科目に組み込まれており、現場ですぐに活かせる実践力の習得を重視した設計といえるでしょう。
職場実習の位置づけ
講義・演習を終えた後には、自分の職場で4週間の実習が行われます。事前に課題を設定したうえで、実際のケアの場面でアセスメントを実践し、ケア計画を立案・評価するという一連のプロセスを経験する仕組みです。
実習後には、その成果をまとめて報告する機会も設けられています。座学で得た知識を現場で試し、振り返ることによって、知識が本当の意味での「技術」へと定着していくわけです。この職場実習こそが、認知症介護実践者研修の大きな特徴といえるのではないでしょうか。
オンライン受講について
2026年4月施行の改正では、同時に双方向でやり取りできる方法であれば、オンラインでの講義・演習も認められるようになりました。集合研修と同程度の効果が期待できる範囲という条件付きではありますが、柔軟な学習形態に道が開かれています。
働きながら学ぶ介護職員にとって、時間的・地理的な制約はこれまで大きな壁でしたが、オンラインという選択肢が加わったことで、受講のハードルは下がりつつあります。
義務化との関係は?介護現場への影響
ここでは義務化されている基礎研修との関係や実践者研修が現場で重視される理由や、介護報酬とのつながりを見ていきましょう。
認知症介護基礎研修の完全義務化
2021年の介護報酬改定で義務化が決定し、3年間の経過措置を経て、2024年4月1日から認知症介護基礎研修の受講が完全義務化されました。一部のサービスを除くすべての介護サービス事業者に対し、医療・福祉の資格を持たない介護職員へ基礎研修を受講させることが必須となっています。
ここで押さえておきたいのは、義務化されたのはあくまで「基礎研修」であるという点です。本記事で扱う認知症介護実践者研修そのものが直接義務化されているわけではありません。
実践者研修が現場で重視される理由
基礎研修が「最低限の土台」を築くものであるのに対し、実践者研修は現場でリーダー的な役割を担う人材を育てることを目指しています。施設や事業所全体のケアの質を底上げするには、知識を持つだけでなく、その学びをチームに広げられる人材の存在が欠かせません。
そのため、義務ではないものの、リーダー職へのキャリアパスの一環として実践者研修の受講を推奨・奨励している事業所は数多くあります。組織として認知症ケアに力を入れる施設ほど、この研修を重視する傾向があるといえそうです。
介護報酬との関連性
介護報酬には「認知症専門ケア加算」という項目があります。この加算では、上位研修である認知症介護実践リーダー研修や認知症介護指導者養成研修の修了者を所定数配置することが、算定要件の一つとされています。
認知症介護実践者研修は、これら上位研修へステップアップするための前提となる研修です。そのため、加算取得を見据えた事業所のキャリア形成においても、重要な出発点としての位置を占めています。研修が個人のスキルアップにとどまらず、事業所の収入にも間接的に関わってくる点は、知っておいて損はないでしょう。
まとめ
認知症介護実践者研修は、介護現場で働く職員が「認知症ケアのプロ」として一段上の力を身につけるための、国が整備した実践的な専門研修です。2026年4月1日施行の最新カリキュラム(介護保険最新情報Vol.1487)によって、本人と家族の尊厳の保持、そして共生社会の実現に向けたケアの質向上が、研修のねらいとしてあらためて明確に位置づけられました。
受講要件は「認知症介護基礎研修の修了+実務経験おおむね2年程度」が目安で、申し込みは事業所を通じて各都道府県へ行う流れです。講義・演習23時間と職場実習4週間を組み合わせた学びを通じて、現場ですぐに活かせる実践力を着実に養えます。修了後は上位の「認知症介護実践リーダー研修」への道も開かれており、長期的なキャリアを描くうえでも大きな意味を持つ研修だといえるでしょう。
参考:厚生労働省 「認知症介護実践者等養成事業の円滑な運営について」の 一部改正について厚生労働省 認知症施策推進基本計画
執筆者プロフィール

ウェブ・コピーライターとしてクライアントワークを中心に活動中。